■ 123.「斯く熱めく - 10」

LastUpdate:2009/08/31 初出:YURI-sis

「さ、さとり様……」

 

 ざわっと、躰の中で急速に何かの感情が鬩ぎ立つ。
 その答えがキスに呼び起こされた歓喜なのだと、感情が躰中に満ちて初めて空にも理解できた。

 

「……お嫌ではありませんでしたか?」
「い、嫌だなんて! で、ですが……不意打ちなんて、狡いですよ……」
「ふふっ、そうですね。ごめんなさい」

 

 空の言葉に、さとり様は簡単にぺこりと頭を下げて謝ってしまうけれど。上体を起こした後には、その口元にちょこんと舌を突き出していらっしゃって。
 そうしたさとり様の姿にはもちろん誠意も何もあったものではないけれど。あまりに可愛らしいその様子を見せられては、何もかも許してしまえそうな。そんな気持ちばかりが空の胸中には溢れていた。
 普段は粛々としていて、あまりこういうはしゃいだ様子を見せてくれないさとり様が、今だけはまるで体躯に見合う年齢相応の無邪気さで接してくれているように思えて。空は何だか嬉しい気持ちで一杯になる。きっと他のどのペットも、お燐でさえ知らない可愛らしいお姿を、いま自分の前でだけ見せて下さっているのかと思うと。

 

「恋というのは、好きな人を自分のものにしたいという欲望なのだと思っておりましたが。……違うのですね」
「……そう、なのでしょうか。私にはまだ、よく判らないみたいで」
「はい、少なくとも私にとっては違うものみたいですね。私には……空を自分のものにしたいというよりも、私が空のものになりたいという欲求が強いみたいで。……ずっと空の傍に居ることを許して貰えて、空の為に生きたいと。今は、その想いだけが何よりも強く、私の胸の裡に犇めいているかのようです」
「そ、そのような! ……お、恐れ多い、です」
「どうしてですか?」

 

 不思議そうに見つめる瞳が、空を捉える。
 純粋な疑問を湛えた瞳に見つめられると、なんだか不思議と居心地の悪い感覚に満たされて。気づけば空の方から、さとり様と結ばれた視線を逸らしてしまっていた。