■ 124.「斯く熱めく - 11」

LastUpdate:2009/09/01 初出:YURI-sis

「と、当然じゃないですか。私は、さとり様のペットなわけですし……」
「かつての声も力も持たなかった頃の空であれば、確かに私でも主足り得たのかもしれませんが。ですが、いまの空には言葉も相応の力もあるではありませんか。いまのあなたは地霊殿に縛られることなく、どこででも自由に生きることができる筈です。自活できる以上、それはもうペットでなど有り得ないのですよ、空」
「そ、そんな……! で、でも私は、ここに居たいです!」
「はい。私も、ずっと空にはこの場所に居て欲しいと思ってます」
「で、でしたら。どうして、そのような悲しいことを仰るのですか……」

 

 さとり様の言おうとしていることが判らなくて、空は混乱してしまう。
 元々そんなに頭が良い方ではないのだ。難しい話は、進んで避けてしまうぐらいなのに。安直に内容を訴えて下さるものではなく、婉曲に伝えようとする言い回しでは、混乱させられるばかりでなかなか要点を掴むことができない。

 

「ふふ、回りくどい言い方をしてしまって済みません。言いたいことは、一つだけなのです」
「な、何でしょう?」
「簡単ですよ。……いまこの場所に住む空の為に、私がしていることなんて何も存在しないということです。私はこの地霊殿でしか生きることができず、空はどこででも生きることができる。そんな貴方が地霊殿に居て下さるのは、偏にあなたが私を大事にして下さるが為。あなたが好意で私の傍に留まって下さっているだけであり、そこに上下関係などあろう筈もないということです」

 

 それと、とさとり様は続ける。

 

「私は……きっと空が居なければ生きていけません。ですから私は、空にここに留まって欲しいといつも願っている。あなたはそれに応えて、ここに留まって下さっている。――もしも私達の間に主従というものがあるとするなら、あなたに生かされている私の方が従になっていいぐらいなのだと思いますが」
「私が、さとり様の主……!?」

 

 あまりにも魅惑的なその絵を、一瞬だけ想像してしまって。
 けれど、あまりにも違和感のあるその想像図を、空はすぐにぶんぶんと振り払った。