■ 130.「斯く熱めく - 17」

LastUpdate:2009/09/07 初出:YURI-sis

 空はもう、それを脱がしていいかをさとり様に問うことはしなかった。さとり様は総てを許して下さっていて、空は逐一訊ねることを望まれないだろうから。恥ずかしさを負わせることになることを承知の上で、遠慮知らずに薄桃のショーツにも指先を触れさせる。
 一瞬だけぴくりと震えた躰。けれど、さとり様も覚悟を決めて下さっているのだろう、返ってきた反応はそれだけで、怯える表情ひとつさえ浮かべてはいらっしゃらない。寧ろさとり様の瞳には一種の決意めいた意志さえ見えるようで、そのお気持ちの儘に空は少しずつ最後の薄布を下腹部から抜き取っていった。

 

「はあ、っ……」

 

 声こそ上げない代わりに、熱い溜息がさとり様の喉元から零れ出る。
 溜息ひとつでさえそうなのに。その上、何一つ衣服を身につけておられない裸のさとり様が、いま空の目の前に総てを晒して下さっていることもあって。少しでも気を緩めたなら、酷くくらくらする頭の感覚にすぐに意識を持って行かれてしまいそうにも思えた。

 

「……お綺麗です、さとり様」
「ほ、本心からそんなこと言わないで下さい。は、恥ずかしい……」
「私だって、本心じゃなきゃ……こんな恥ずかしい台詞、言えないですよ」
「う、うう……。嬉しいですが、擽ったくて変な気持ちです……」

 

 さとり様はいかにも居心地の悪そうな声色でそうした気持ちを伝えてくるけれど。……少なくとも、その声の中に不快や嫌悪といった感情は含まれていないように思えるから、空は慎むことを知らない。
 僅かにでもさとり様の言葉に不快が混じるようであれば、辞めるつもりではいるけれど。そうでない限りは、さとり様もきっと嫌だと思っておられるわけではないように思えるから。――さとり様は直接に空の心を読み取ってしまうけれど、空だって長らくお側に居たのだから。さとり様の心を推し量ることだって、少しぐらいはできている筈だから。

 

「お慕いしております、さとり様。……この世界で誰よりも」
「あ、ああっ、空っ……!」

 

 正直な儘に吐き出された言葉ほど、強い力を持つ物はない。
 まして虚実を看破するさとり様に対して、これ以上に効果的なものなんてある筈も無い。