■ 138.「斯く熱めく - 25」

LastUpdate:2009/09/15 初出:YURI-sis

 さとり様のその言葉に嬉しさこそ覚えつつも、けれど空は心強いに拒否反応を抱かずにはいられなかった。さとり様の秘所を舐めたいという想いは空にあるけれど、逆にさとり様から舐められるだなんていうのは……想像するだけでも、あまりにも心苦しくて仕方が無いことなのだ。自身の汚い場所にさとり様の舌や唇が触れる――嫌悪よりもなお強い感情が、心の裡で荒れ狂うように心を締め付ける。

 

「汚くなどありません。空の躰に汚いところなど、ありはしないのですよ」
「そ、それは詭弁ですよ……」
「でしたら。先程から空が同じことを私に対して思って下さっているのも、やはり詭弁なのですか?」
「……そ、それは」

 

 指摘されて空は怯む。――詭弁などではない。僅かにさえ、紛った気持ちなどではない。
 さとり様の躰に汚い個所など、存在するはずもないのだから。

 

「詭弁などではありませんが、でも」
「でしたら、試してみませんか。……昔読んだえっちな本に、そういう行為もあったような気がしますし」
「……ですが」

 

 それだけは、許してしまってはいけないと思う心がある。
 さとり様がそう言って下さっているのだから、甘えてしまえばいいと思ってしまう心もある。

 

「空と、そういうことをしてみたいのです。……駄目ですか?」
「………………駄目、ではないです」

 

 心で迷い諍う、そうした心も。結局はさとり様の甘い囁きひとつで、簡単に決着させられてしまう。
 ――空もまた、昔読んだ本で学んだ知識をひとつだけ思い返していた。恋愛って言うのは結局、どうしようもなく相手のことを好きになってしまった人の負けでしかなくて。強請られれば最後、どんなことであっても抗おうという意志さえ抱けなくなるのだと。そんなことを、何かの本で読んだ気がするのだけれど。
(本当に、その通りなのだなあ……)
 そう思う。さとり様に望まれたが最後、空には抵抗さえできないのだから。