■ 143.「斯く熱めく - 30」
「気持ちよかった、ですか?」
空の躰から下りると、急にさとり様がこちらを見つめてきて。
行為に耽っている間には互いに顔を見ないでいられたのに、急に達したばかりの今になって顔を見られてしまったことで、空の恥ずかしさは急速に高まってくる。さとり様は空の目を真っ直ぐに見つめてくるけれど、空は視線を重ねていることができなくなって、ぷいっと視線を逸らしてしまう。
「……気持ちよかったです」
それでも嘘を吐くことはできない。
だって……本当に。怖いぐらい、気持ちよかったのだから。
「ふふっ、それは何よりです。……空」
「はい?」
「あなたが大好きですよ。他の誰よりも、特別に愛しています」
心が読める人というのは、他人の心を掴むことにも長けているのだろうか。長く濃密な性愛の時間を経て、さとり様のことだけを感じ続けた時間を終えた今になって囁かれるそんな甘い言葉は、あまりにも容易く空の心を虜にしてしまうのだった。
「……わ、私も。さとり様のことが、誰よりも特別です」
「はい、存じております。心を読むまでもなく、あなたの想いはとても真摯に伝わりますから」
胸元に手を宛がって、感じ入るように目を細めながらそう告げてくれるさとり様の表情からは。本当に、無条件に空のことを信頼して下さっている様子がありありと伝わってきて、空はあまりに嬉しくて泣いてしまいそうでさえある。
盲目的に愛さずにはいられない相手が、無条件に自分を信頼してくれているということ。それは果たしてどれほどに果報なことであるだろうか。