■ 145.「斯く熱めく - 32」

LastUpdate:2009/09/22 初出:YURI-sis


「……勘違いしないで下さいね。別に被虐嗜好があるというわけではないのです」
「そうなのですか?」
「はい。多分私は『空のものになれた私』というものを強く感じたいのだと思います。……ですから、少しぐらいは乱暴に愛されることで、あなたの意の儘にされたいという思いがあるのでしょう」
「私の……意の儘に、ですか」

 

 その気持ちなら、空にも少しだけ理解できるような気がした。
 ペットとしてお仕えはしていても、さとり様は空を初めとしたペット達に何かを求めたり、強いたりすることは一切なさらないお人だったから。生きる為の場所を与えてくれて、空にとっては生きることに伴う喜びさえも与えて下さったさとり様に対する恩は深い。
 それなのにさとり様は恩を返す機会を与えて下さらないから、尽くしたい想いばかりが募って。ペット扱いで構わないから、もっと思う儘に私のことを使って下さればいいのに――と。そう思った機会なら空にも数え切れないほどにある。それと、同じようなことなのだろうか。

 

「……それは、少しだけ違うかもしれませんね」

 

 すると、空の心を読んださとりさまが静かに首を左右に振って否定する。

 

「あなたは恩義から私に尽くそうとして下さったのかもしれませんが。私は……空のことが好きだから。この世界で誰よりも空のことが好きだから、あなたの所有物になりたいという想いが強いのです。空が傍にいて欲しいと思って下さる時には、いつでも私のことを捕まえて離さないでいて欲しいと思いますし。……あなたが、えっちなことを私にしたいと思う時には、いつでも好きに押し倒して欲しいと思うのです」
「そ、そんな乱暴なこと、できませんよ……」
「……優しいあなたに、それができないことは承知しています。ですが私はそれでも、あなたに私の身体や心を好きにして欲しいという望みを抱かずにはいられないのです。この気持ちを『被虐』と呼ぶのなら、そうなのかもしれません。――私は、誰よりも空の特別である為に、あなたの唯一のペットになりたいという想いを捨てることができないのです」