■ 146.「斯く熱めく - 33」

LastUpdate:2009/09/23 初出:YURI-sis


 さとり様が口にしたそれは、少し捩れた想いなのかもしれないとも空には思えた。
 けれど、その想いを訴えて下さるさとり様の表情や語調はこの上なく真摯なもので。
 だから空も――求めて下さる想いに応えたいという気持ちが、心の裡でだんだんと強くなっていくのを意識せずにはいられない。空だってさとり様のことを、この世界の誰よりも愛しているのだから。愛する人が望んで下さることを叶えたいという願いを、空もまた抱かない筈がないのだ。

 

「承知しました。ですが、もし途中で嫌になったり辛くなるようでしたら、いつでもそう言って下さいね?」
「ええ、お約束します。――あなたは本当に優しい人ですね、空」
「そ、そんなこと言わないで下さい! ……そんなこと言われたら、私も乱暴にしにくいですから」
「ふふっ、それは困りますね。では私は、これから優しくないあなたを期待することに致します」
「……ご期待に添えるか、わかりませんが」

 

 自分の心を平静に保つ為に、ひと呼吸置いてから。
 おもむろに空は、覆い被さるようにしながらさとり様の躰を自分の躰ごと押し倒してしまう。さとり様も空の行動を予期していたのだろう、抵抗らしい抵抗もせずに簡単にベッドの上に押し倒されてしまうと、そのまま空によって組み敷かれるような格好になってしまう。
 目の前に、押し倒されたさとり様のお顔がある。僅かな不安さえも浮かべず、期待にばかり満ちた瞳は無条件に空のことを信頼して下さっている証に他ならない。空が愛して止まず、そして空を誰より愛して下さるこのお方を、今から好きにしていいのだと思うと、動悸がまるで張り裂けそうなぐらいにまで押し止められなくなっていくみたいだった。

 

「……んっ……」

 

 唇を塞ぐ。もちろんキスの許可を求めたりなんてしない。
 さとり様の躰も、唇も。今だけは乱暴に猛る心の儘に、求めることが許されているから。