■ 152.「斯く熱めく - 39」

LastUpdate:2009/09/29 初出:YURI-sis


 それからは、ただ二人で隣に並んでベッドに躰を横たえながら静かに手だけを繋ぎ合って時間を過ごした。さとり様を愛する行為に没頭していたせいか忘れていたけれど、一度絶頂に導いて頂いた空の躰もまた十分に疲労しきっていて。果てた躰をぐったりと弛緩させるさとり様の隣で、空もまた急に全身を支配し始めてきた疲労感に身を任せる儘に呼吸を整えていく。
 繋ぎ合った手のひら、それと躰を横たえながらも至近距離で互いに見つめ合っていると、愛し合えたのだという実感がどんなにも嬉しく心を衝き上げてくる。

 

「――幸せです、さとり様」
「そうですね、私も幸せです。……もう『さとり』と呼び捨てにしては下さらないのですね」
「そ、それは。……これから頑張って慣れるようにします」
「ええ、楽しみにしています」

 

 柔らかく微笑んで下さる、さとり様の表情が嬉しい。私がさとり様と一緒にいられることで感じる幸せを、さとり様も同様に感じて下さっているだなんて。これに勝る幸せなんて、果たして存在するのだろうか。
 きっとさとり様は、地霊殿で飼われているペット達の誰にとっても憧れの対象であるのに。私ばっかり独占してしまっていいのだろうか――今更ながら、そんなことさえ考えてしまう。とはいえ空はもう一度さとり様を独占してしまう幸せを覚えてしまったのだから、もう手放すことなど出来ようはずもないのだけれど。

 

「私も、同じことを思っていますけどね」
「へっ?」
「あなたのことですよ、空。あなたの明朗にして快活な姿に心を惹かれない人の方が少ないというのに。……これほどに魅力的なあなたを、私ばかりが独占してしまってよいものかと、あなたに心を寄せる周囲の方々に少しだけ申し訳なくも思ってしまいます」
「わ、私にそんな、魅力なんてありませんよ……」
「……自分では判らないものなのでしょうか?」

 

 不思議そうにさとり様は首を傾げてみせて。
 くすっと、小さく微笑みながら。ぎゅっと繋がった空の手を、さとり様は少しだけ強く握りしめて下さった。