■ 153.「斯く熱めく - 40」
「あなたはとても魅力的な人ですよ。あなたにだから、私だってこんなにも心を惹かれたのですし。……この地霊殿やその近隣で、あなたを慕う者の数も一人や二人ではないでしょうし」
「う、嘘ですよ、そんな」
「心を読める私が言っているのですから、虚言などではありませんよ。それに……私が嘘を言っているかどうか、あなたになら判るのではないですか?」
言われて、空は言葉に詰まる。さとり様は普段から嘘というものを殆ど吐かない方でいらっしゃるから、慣れない嘘ほど看破しやすいものもないだろう。
真っ直ぐに見据えた瞳、語調、表情。どれをとっても嘘を吐かれるようなそれではなかったし、何より……自惚れかもしれないけれど、さとり様が私に嘘を吐くことなど有り得ないような気がしてならなかった。
つい先程まで熱く愛し合っていて、性愛の最中でさとり様がどれほど誠実でいて下さったかを覚えているから。空の心だけでなく、躰もまた愛された指先の誠実さを覚えているのだから。
「……正直、私にそれだけの魅力があるとは思えないのですが」
さとり様の言葉を嘘だと思うわけではない。
それでも空には、どうしても自分などに他者に慕われる魅力があるとは思えなかった。
「自分の魅力というものは、得てして判らないものなのかもしれませんね。……空がどれほど愛して下さっても、私が私の魅力について理解することができないように」
「さ、さとり様の魅力でしたら、たくさん言えます!」
「私も空の好きな所でしたら、幾つでも挙げることができますね」
言い合う言葉が少しだけ可笑しくて、どちらからともなく笑みが零れた。