■ 159.「静穏と熱情」

LastUpdate:2009/10/06 初出:YURI-sis

 アリスが訪ったのは、レミリアの私室。
 もう朝日が昇り始めるほどのこんな時間にもなって彼女の部屋を訪ねてしまうだなんて。アリスが望んでいることは余りにも露骨すぎて、恥ずかしくも申し訳なくも思うのに。

 

「――来てくれて嬉しいわ。入って」

 

 けれどレミリアは嫌な顔せずに。咲夜を呼びつけるのではなく、自分で紅茶を淹れてアリスを歓迎してくれて。
 小さなテーブルで椅子をひっつけて、アリスのすぐ隣に腰掛けながら。レミリアはそっとカップを持つアリスの手の甲に、自分の手のひらを重ねるようにして応えてきてくれた。
 彼女が示す嫋やかな仕草。それが拒否の仕草でないことぐらいは、アリスにも容易に理解できた。

 

 

 

 簡単に押し倒されたレミリアの小さな身体を、柔らかなベッドがぽふっと音を立てて包み込む。

 ベッドの上で組み敷いてから至近距離で見つめるレミリアの姿は、普段よりも何倍も魅力的に見えてアリスの心を容易く掴み取ってくる気がして。(これが俗に言う、魔性の魅惑なのだろうか)と、アリスはそんなことをひっそりと想った。

 

「ふふ、随分とせっかちさんなのね」
「う」

 

 言われて、アリスも苦笑するしかない。折角紅茶を入れて貰っても、それを十分に楽しめるだけの心の余裕は既にアリスには無かったぐらいなのだから。手早くカップを飲み干してしまって、こうしてレミリアのことを押し倒している私がいて。それをせっかちと言われるのは、実に的を射ていて反論の余地もない。

 

「……ごめんなさいね。こんな風に抱かれるのは、嫌でしょうに」
「気にしないで構わないわ。嫌だと思っていたら初めからあなたを部屋に入れたりしないのだし、性急に求められるのも嫌いなことではないから」
「そう? 正直、そう言ってくれると助かるわ」
「私の正直な感想よ。それに私だって、いつもあなたに愛されたいと思っている。……私が欲しくて、我慢できなくて部屋を訪ねてきてくれたのでしょう? 愛するあなたが私を欲しいと思ってくれることが、嬉しくない筈がないわ」

 

 率直な言葉。けれど、言葉の節々からレミリアが抱いてくれている想いの有難さが伝わってくる。
 彼女がそう言ってくれるお陰で、アリスは心の裡に犇めいていた(申し訳ない)と思う気持ちを忘れることができて。ただ彼女を(欲しい)と思う正直な気持ちから、顎のラインに指先を触れさせることができた。