■ 160.「静穏と熱情」
「ん……」
例えるならそれは、約束のキス。これからあなたのことを全霊を以て愛するという、宣言にも誓い。
数秒程度の短い触れるだけのキスを交わしてから。とろんとした瞳のレミリアから、アリスは器用に衣服を脱がしていく。
寝間着を兼ねているゆったりとしたドレスは脱がすことが難しくなくて、器用なアリスの指先はあっという間にレミリアを下着だけの格好にしてしまう。翼に気を遣いながら薄手のシャツを脱がして、残されたドロワーズも脱がしきってしまえば、余計なものを何一つ孕まない魅力的なレミリアの総てがアリスの腕の下に収まった。
「なあに、私だけが一方的に裸になるの?」
「……ごめんね。もう自分が脱ぐのを待ってられるほど、我慢できないかも」
「そう、だったらいいわ。――下着は汚しても構わない?」
「構わない、けれど……?」
レミリアの質問の意味が判らなくて、一瞬訝しげに思っていると。
「ひゃいっ!?」
徐にショーツの内側に潜り込んできた小さな手があって、驚きの余りにアリスは思わず変な声さえ上げてしまう。確かに汚しても構わないとは言ったけれど……まさかスカートの内にまで、手を入れてくるとは思わなかったから。
「私を気持ちよくするだけよりも、一緒に気持ちよくなった方が満たされるでしょう?」
「……それは、そうかも」
「だったら少しだけ我慢して、スカートとショーツだけでも脱いじゃいなさい。ちゃんと出来たら、私があなたのことも気持ちよくさせてあげるから」
「子供扱いしないでよね……」
まるで窘めるようなレミリアの口調に、思わず悪態をついてしまうアリス。
それでも悪い気はしない。余裕を振る舞っているけれど、本当はレミリアもいっぱいいっぱいなのだということを、彼女の躰から伝わってくる早すぎる動悸が教えてくれているからだ。
「脱がして」
「もう、しょうがないわねえ……」
だからアリスも、甘えるようにレミリアの躰に少しだけ体重を掛けながら。そんな言葉を口にしてみせる。
溜息混じりのレミリアの声は、その演技とは対照的に随分と嬉しそうに聞こえていた。