■ 169.「純愛調教」

LastUpdate:2009/10/16 初出:YURI-sis

「――私達は、退屈に飽いていてね」
「こんな館に閉じこもって長い間生きてれば、そうでしょうよ……」
「ええ、正しくその通りだわ。だから興味を持てることに飢えてもいてね」

 

 くつくつと、愉快そうに笑いながらレミリアは深く頷いてみせる。その笑い声や仕草はどうみても年端もいかない少女のものであるけれど、見た目に反して吸血鬼である彼女が途方もないほど長い年月を生きてきたことは想像に難くない。
 紅魔館はとても広い敷地を持っているけれど、とはいえその中だけで長い年月を生きるとなれば話は別で。彼女の言うとおり、その都度に興味を持てるものを見つけながらでもなければ、すぐ退屈に飽いてしまうことになるのは避けようがないことだろう。

 

「つまり、レミリアにとっての『興味を持てること』を私に提供しろ、という用件と見て構わないのかしら?」
「ふむ、それも間違いではないのだけれどね。――アリスが特に急いでないのなら、一先ずは私の話を最後まで聞いてくれてもいいのではないかしら?」

 

 指摘されることでいつしか急いている自分の心を自覚して、アリスは恥じ入る。せっかくゆっくりと話をする為にレミリアがこうした場を設けてくれたというのに、焦りが吐かせたアリスの言葉は折角の好意を無にするようなものだからだ。
 すうっと大きめの深呼吸をひとつしてから、アリスは再度レミリアと視線を重ねる。

 

「……たしかにあなたの言う通りね。失礼したわ」
「判っていただければ結構。ともかく、私は興味を持てるものをいつだって模索していてね。……例えば、あなたがそのひとつだった」
「わ、私!?」

 

 落ち着かせたはずの心が、驚きの余りに一瞬で飛び上がって。思わずアリスは調子外れな声で問い返してしまう。
 そんなアリスの様子を見て、レミリアは心底愉快そうにくつくつと尚も笑ってみせた。

 

「ええ。紅魔館では働くメイドがたまに変わることはあっても、中に住む主だった者には変化がない。……けれどある頃から、あなたは普通に紅魔館に出入りするようになった。それも私の親友であるパチェから正式に許され、客人として堂々と紅魔館を訪ねて来るものだから、これで館の主である私があなたに興味を持たないほうがどうかしてると思うけれど?」
「……それは、そうかもしれないわね」

 

 実際、館の主であるレミリアから許可を得たわけでもないのに、こんなふうに客として堂々と彼女の屋敷に出入りしていたのだから。地下の図書館に出入りする為の必要最小限しか紅魔館の中を通らないのだとしても、それがレミリアの目に止まらないはずがないのだろう。