■ 170.「誠実と純真」

LastUpdate:2009/10/17 初出:YURI-sis

 椛の服の上を幾度もにとりの指先が走る。単純な構造をしているにとりの衣服とは違って、おそらく彼女にとっては慣れないものである和装は脱がしにくいものであるのかもしれない。ベッドの上に座ったままの格好で、衣服を脱がそうとしてくる指先を見つめながら、椛はそんなことを思う。それでも頑張って脱がそうと格闘してみせるにとりの表情が、何だか少しだけ嬉しかった。
 苦戦しながらも、やがてにとりは椛の上衣とスカートを何とか脱がしてみせて。さらに時間を掛けながら、ゆっくりと胸元の晒し木綿を緩めながら巻き取っていく。少しずつ緩められていく胸元の感触が、なんだか居心地の悪い擽ったさにも似ていて、身動ぎをしながら椛はそれに何とか耐えて見せた。

 

「こっちも、脱がすよ?」

 

 そう訊いてきたにとりに、椛は隠せない恥ずかしさを頬に露わにしながらも、躊躇無く頷いて答える。唯一最後に椛の躰に残されたのは、何の飾り気もない純白のショーツ。躰を横たえた椛の下半身から、にとりはするすると薄い布地のそれを抜き取っていって。
 ベッドの上で、にとりと同じように椛もまたなにひとつ身につけない格好になる。そうして力強く抱き締め合えば――椛が望み、そしてにとりも望んでくれた通りに、布きれひとつ介さない限りなく近い密度で二人はひとつのものになれるような気がした。
 近すぎる距離からにとりの動悸がそのまま伝わってくる。そして椛の動悸もまた、にとりにそのまま伝わっているはずだった。躰の総てを隠さず、動悸や吐息のひとつさえ相手に伝わってしまうこの状況では――まるで心までも相手にそのまま伝わってしまうかのようで。実際、椛にはこうして抱き締め合うことでにとりが感じてくれている嬉しさや幸福感が、そのまま行き交う互いの熱に入り交じって伝わってきているような気がしてならなかった。
(……もし、このままえっちなことをしたら、どうなるんだろう?)
 ふと椛はそんなことを思う。何もかもが伝わり合うこの状況で、既に潤いを帯びていることが判るにとりの大事な部分を責め立てたなら。その刺激ににとりが感じてくれる感想、感覚、そして快感。そういったものは、どのような形で自分に伝わってくるのだろうかと思えて。
 一度疑問に思ってしまうと、もう椛にはそれを疑問の儘にしておくことができなくなってしまった。