■ 171.「誠実と純真」
既に十分すぎる程に濡れそぼち、期待に溢れていた文の性器の上にゆっくりとアリスさんの足が下ろされてきた。踵がまず陰唇の上に触れてきて、そのまま擦るように踵からつま先までがスライドしてきて、その刺激だけでも文はあまりの快感に躰が強く打ち震えていることを実感する。
快楽と同時に擽ったさと違和感も相俟った感覚に、思わず自分の脚が反射的に閉じそうになってしまうのを、両膝をぐっと押さえつけることでなんとか耐える。自分から望み、強請ったことなのだし……こうしてプレイを始める前にも「足を閉じることは許さない」とアリスさんがちゃんと宣言してくれていたから。あたかも従順に言いつけを守る奴隷の気分に感じ入りながら、文はそれを遵守することができていた。
「――足でこすられて感じるなんて、変態なんじゃないの?」
凍てつくほどの冷たい眼光が文を捉えて。その瞳に睨め付けられていると、ゾクゾクとしたものが文の背中を走ってくるのだ。
鋭い目つきと、冷たい表情。そこに普段の優しいアリスさんの面影はない。いちど『責め手』を演じ始めたが最後、いつもアリスさんは終始その役に没頭することを愉しまれているらしいのだ。
「も、申し訳ありません」
「……誰が謝れって言ったかしら?」
「ひぃ、っ……!」
蜜に塗れた文の膣口に、アリスさんの足親指が差し入れられてきて。太すぎる挿入感に、文は思わず悲鳴めいた声さえ上げてしまっていた。
先程靴下を脱いだばかりで、促されて文が舐めた時にはまだ少しだけ蒸れていたアリスさんの足が、今こうして文のもっとも脆弱な性器の中に差し込まれ始めている。これほど卑しい責められ方というのも無く、人権というものがまるで感じられない自分自身の扱われ方に、また文は興奮を覚えないではいられないのだった。
『アリスさんの奴隷にして下さい。……もしくは、奴隷以下でも構いません』
いつかの日に、アリスさんにそう志願したのは文の方だった。
突拍子もないお願いをするその日までは、確かに私達は親しい友人同士でしかなかった筈なのに。親しさを深める為の日々が、どこかで間違ったのだろうか。気づけば――文は、アリスさんに人としてではなく、物同然に扱われたいという意識を抱くようになっていた。
奴隷同然に詰られ、弄ばれ、嬲られたい。苛められて、徹底的に苛められて、辱めて遊ぶ為だけの人形としてお側に於いて欲しいと。そんなことまで希わずにいられなかった私は。
「わ、私は……変態ですっ。変態の私を、どうか苛めて下さいっ!」
「うん、よく言えました」
「あ、ああああっ……!」
膣口から抜かれたアリスさんの親指が、そのまま文のクリトリスに直接に触れて押しつぶすように強い圧迫を掛けてくる。指先で責められるほどの価値もなく、こうしてアリスさんの足によって無慈悲な愛を与えられるだけが精一杯の私。そんな私を意識することが、けれど馬鹿みたいに途方もない幸福感を産む。
そんな文が、どうして変態で無い筈などあるだろうか。少し伸びた堅い親指の爪が、鋭利な刺激になってクリトリスに突き刺さる。そんな直接的な痛みさえも快楽に変わってしまうのだから……私の異常性など、文自身にさえどうしようもないことでしかなかった。