■ 173.「持てる者の檻03」

LastUpdate:2009/10/20 初出:YURI-sis

 脱がすのにやけに手間取ったりして、くすくすと霊夢に笑われたりしたことも今となっては懐かしい思い出でしかないのかも知れなかった。魔理沙にとっては慣れないものであった筈の霊夢の和装、それを脱がすのに梃子摺るのは当然と言えば当然のことで、まだ霊夢のことをこうしてベッドに押し倒した回数を数えていられる頃には随分と苦戦したものだけれど。――思い返すだけでも懐かしく、且つ自分の事ながら可笑しい気持ちが込み上げてくるのを魔理沙は意識せずにはいられなかった。あれほど苦戦したのは嘘みたいに、今はこんなにも容易く霊夢の服を脱がすことができてしまうのだからだ。
 霊夢の身体をベッドに横たえた儘でも、魔理沙は難なく霊夢の躰から衣服を奪い取ってしまう。巫女を象徴する格好を失ってしまえば、ベッドの上には晒し木綿を巻いた小猫のような少女がひとり小さく丸まっているだけだ。今日は魔理沙が勝って霊夢が負けたのだから――その身に降りかかる報いを覚悟もしているのだろう。衣服を失った頼りなさからかいつも以上に稚さこそ窺えるものの、白肌の露出を増した霊夢の躰からは少女独自の色気めいた何かを魔理沙は意識させられてしまう。

 

「抵抗するなら今のうちだぜ?」
「あら、抵抗したら許してくれるのかしら?」
「――無いな。その時は、捩じ伏せて苛めるって楽しみが増えるだけだ」
「そういう乱暴なのも嫌いじゃないけれどね」

 

 くすくすと、小さく微笑み掛けてくれる霊夢の眼差しがあって。……何時からか、こんなふうに視線を交錯させる際に彼女の瞳を見る都度に、自分に対して抱いてくれている幾許かの想いを感じ取れるようになっていた魔理沙は、どきりと少しだけ脈打つ心を揺らされていく。
 純粋な儘に私を想ってくれる霊夢の心が、魔理沙にとって馬鹿みたいに途方もない倖せを与えてくれるから。だから魔理沙は、その倖福感に搦め溺れさせられるみたいに、不乱に霊夢を求めたいと想う衝動に抗えなくなるのだ。

 

「抵抗して許す気持ちがあるなら、最初から勝負なんてしてないさ」
「……ええ、そうね。許すことも許されることも、どちらも私にとって本意ではないわ。……魔理沙のことを壊してしまいそうな程に苛めたいと思うし、あなたに壊されそうなぐらいに苛められたいとも思っているから」

 

 私達はお互いに、相手に蹂躙される悦びを知ってしまった。
 だから――もう戻れはしないのだ。愛する相手を静かに求めて、婉曲に意志を伝えて、少しでも傍にいようと行動するような。所謂、世間一般に『恋愛』と呼べるもの。相手の躰をこれほどに密に求め、その充足と悦びを知ってしまった私達は、一切の『恋愛』を経験さえすることなく。けれど『恋人同士』なんていう建前が持っている意味なんかよりもずっと、深い場所で互いのことを繋ぎ止め合っていて。
 傍らでは、まるで鏡中合わせのように。繋ぎ止めるのと一緒に最愛の人の手によって、身動き一つさえ取れない程きつく雁字搦めに拘束されることを希わずにいられないのだ。