■ 174.「持てる者の檻04」

LastUpdate:2009/10/20 初出:YURI-sis

 晒し木綿を丁寧に解いて。最後にドロワーズを脱がせると、あとはもう生まれた儘の姿の霊夢だけが魔理沙のベッドの上でちんまりと居心地悪そうにしていた。ひとたび行為が始ってしまえば後は没頭するだけでいいから何を考える必要もなくなってしまう物だけれど、確かに自分ひとりが脱がされて、しかも冷静な思考が残されている隙間の時間というものは居心地が悪いもので。魔理沙もまた実体験でそれをよく知っているだけに、ぷっと軽く吹き出しそうにもなってしまう。
 もう一度押し倒すように霊夢の躰に覆い被さると、嗅ぎ慣れたいつもの心地よい霊夢の匂いが鼻腔をくすぐる。魔理沙はこの匂いが好きで――だから勝負に勝った時には、できるだけ自分の部屋に霊夢を連れ込むようにしていた。激しく何度も愛し合い、霊夢が乱れて汗を噴き出させる度に彼女の匂いは濃厚なものになっていき、およそ数日程度の間、匂いは僅かながら愛し合った証として部屋やベッドにも残る。そうして霊夢の匂いに包まれている間には、いつも霊夢との甘い夢だけを見続けることができるから。
(……なんてことを言ったら、さすがに引くだろうか)
 すぐに「馬鹿ねえ」といつもの溜息顔で返事をされてしまう様子が、想像できてしまうだけにそんな風にも思える。けれど、いつも勝負に勝った魔理沙が自分の家に連れ込むように、霊夢もまた自分が勝った時には自分の家に魔理沙を連れ込むようにしていたから。――もしかしたら同じ事を考えているのかも知れないと、淡い夢を抱くぐらいは許されるだろうか。
 本当は毎日にでも霊夢と一緒に眠れたらと思う。いつでも霊夢をこの腕に抱いて、あるいは霊夢の腕に抱かれながら眠ることができるなら、初めから匂いなどに執着することもないだろうから。
 でも、それは叶わないことだ。彼女には巫女としての職務があり、魔理沙にも魔法使いとしてしなければならないことがある。もちろん極力は逢うように努力はしているし、実際に二日ないし三日に一度といった高い頻度で霊夢との逢瀬を交わしてはいるのだけれど。……僅かに一日や二日逢えない日を挟むだけでも、耐え難い淋しさに躰や心を苛まれることは少なくない。それほど、魔理沙は霊夢のことを馬鹿みたいに愛して止まなかった。

 

「何か、考え事?」
「あ……。ご、ごめん」
「別に構わないけれど。……裸にするだけで、何もされないというのはさすがにちょっと淋しいわね」

 

 半ば苦笑気味に霊夢はそう言ってみせて。
 事実その通りなので、魔理沙はただ申し訳なさから深く頭を下げた。

 

「考えていたのは、私のことね」
「あ、ああ……。判るのか?」
「ううん、何も判らないけれどそんな気がしただけ。……ね、訊かせて? 魔理沙の悩みは私も知りたいから」

 

 霊夢にそう言われるも、正直に口にすべきか魔理沙は少しの間逡巡する。
 けれど結局は魔理沙自身隠しごとが上手くできるタイプではないし、それに愛しているが故に霊夢の『知りたい』という言葉を無下にすることはできなくて。諦めるように、総ての気持ちを簡単に吐露してしまう。