■ 175.「持てる者の檻05」

LastUpdate:2009/10/21 初出:YURI-sis

「……一緒に住む、ね。もちろん私も考えたことはあるわ」

 

 正直に打ち明けた魔理沙の言葉に、霊夢はあっさり頷いてみせる。
 魔理沙がこれほど思っているのだから、きっと霊夢も同じことを考えてはくれているだろうと、漠然ながら思ったことはあるけれど。改めて彼女が迷いもせずに肯定してくれることが、魔理沙には随分と嬉しく感じられた。

 

「ま、あくまで理想論だ。現実的じゃないさ」
「あら、どうしてそう思うの?」

 

 けれど続けた魔理沙の言葉に、今度はとても不思議そうな顔をしながら霊夢は訊き返してきた。

 

「だって、そうじゃないか? 私が霊夢の所に住むのは難しいし、霊夢が私の所に来るのだって現実的じゃない」
「……確かに私は『神社の巫女』だから、魔理沙の所に住むことはできないわ」
「だろうな」
「でも、あなたが博麗神社に住むのを難しいとは思わない。今だって居住スペースは十分に空きがあるし、必要なら萃香にでも頼んで建て増すことだってできるわ。あなたの家の荷物をそっくり持ち込むぐらいはできるのではないかしら?」

 

 霊夢の言葉に、魔理沙は考え込む。そう言われればそうかも知れない、とも思うからだ。
 確かに萃香を初めとした幻想郷の然るべき筋に頼れば、魔理沙の荷物を博麗神社に持ち込むぐらいは容易なことだろう。時間は掛かるけれど、別に魔法の力を用いて魔理沙が少しずつ持ち込んだって構わないのだ。確かに……霊夢の言う通り、魔理沙がこっちに引っ越してくる分にはそう難しいことでは無いのかもしれなかった。
 けれど引っ越しが現実的になる代わりに、あることがどうしても魔理沙の心には引っかかった。
 博麗神社に引っ越して来て、霊夢と一緒に生活して。実験をする為の設備も資料も、全部持ち込んで。だけど――それで果たして、本当に今まで通りに魔法使いの本文を果たせるのだろうか。

 

「ええ、私も同じことを思うわ。だから私も『難しい』と思う」
「霊夢……」
「魔理沙が隣に居てくれると、きっと私は魔理沙に溺れずには居られなくなる。魔理沙と一緒に生活なんてしてしまったら最後、私は巫女の本分も何もかもをかなぐり捨てて、ずっと魔理沙の傍にいることを選んでしまうわ。……だから、あなたと一緒に住むことは、できないの」

 

 霊夢と一緒に住む。現実的で、理想的な生活。
 ――けれど、それは夢物語のようなものだ。
 魔理沙もまた、一緒に住めば霊夢に溺れずには居られなくなるだろう。一緒に住むことで霊夢と逢う機会が多くなればそれだけ、膨張していく求めたい意志を押さえつけていることはできなくなる。同じ屋根の下に逢いたいと想う相手が居て、いつでも会えて、しかもきっと拒まれない。それだけ条件が揃っていて……魔法の研究などに身が入る筈もない。
 きっと、駄目になってしまう。