■ 181.「持てる者の檻」
「……まりさぁ」
「ああ」
再度紡がれる拙くて稚い声。名前を呼ぶその声に、いつしか魔理沙も甘えている。
細やかに震えている指先、僅かに涙が滲む目元。辛い仕打ちの中で、愛されることの倖せを噛みしめてくれている健気な霊夢の表情に、心を奪われない筈がない。
「好きだからな。……ちゃんと霊夢のことだけが、好きだから」
「私も……魔理沙のことだけが好きだよ」
「ああ、知ってる。霊夢の気持ちも知ってるさ、ちゃんと」
「……へへ。そう言ってくれると、やっぱり嬉しいね」
にへっと、緩みきった顔で微笑む霊夢の表情。
きっと世界で私だけに見せてくれる、心を許しきった笑顔が泣きそうなぐらいに嬉しくて。
「愛してるぜ、霊夢――」
気づけば殆どお決まりの常套句を、漏らしてしまってもいた。
霊夢とこうして求め合うことを覚えるまでは、相手を愛する感情の延長線上、想いの行き着く到達点に性愛はあるのだと思っていた。恋情を深め合い、互いを慕い合い、感情を育みきった者同士が最後に求めるものが、互いの躰そのものなのだと思っていた。
――だけど、違う。こうして愛し合う行為を何度も交わして、そのたび毎に霊夢への想いは強くなる。何度も、何十度も愛し合っても霊夢への想いは至ることがなく、今もまだ魔理沙は、そして……おそらくは霊夢もまた、互いへの愛を育みあっている過程に過ぎなくて。
「ふぁああああっ……!! 好きぃぃっ、まりさ……ぁ!」
もっと相手のことを知りたいと、もっと相手のことを愛したいと希う感情こそが。こうして躰を介して何度も何度も愛し愛されたいという直接的な願望を産むのだろうか。
――なんて。腕の中で何度も霊夢の躰を責め立てて、愛しさばかりをどうしようもなく募らせながら。そんな難しいことを考えてしまう私は、やっぱりちょっとだけ不誠実なのかもしれなかった。
「私も好きだぜ……!」
「んぅううっ! 好きぃっ……! 好き、ぃ……!」
結局は考えても何一つ判らない。漠然と判るのは、私達は二人とも馬鹿みたいに求め合うこうした行為が好きで、愛し合うたびにどんどん相手のこと以外を考えられなくなるという事実だけで。
つまるところ私達には、相手に溺れる以外の選択肢は残されていないのだ。