■ 182.「持てる者の檻」

LastUpdate:2009/10/29 初出:YURI-sis

 肌という肌が汗にまみれていた。途中で霊夢にせがまれて魔理沙のほうも服を脱いでいたにも関わらず、二人とも呆れるほど全身に汗をかいていて。夢中になりすぎていたからもう何時間愛し合っていたのかも判らないけれど、二人の発汗状態と、そして疲れに屈してとうとうぐったりとベッドの上に突っ伏している霊夢の様子が総てを物語っているような気がした。
 気を失ってしまったり眠ってしまったりしているというわけではないらしく、髪の毛を手でそっと梳ると霊夢は「んぅ」と媚を孕んだ甘い声を漏らして応えてくれて。責められた霊夢程ではないにしても十分に疲れている魔理沙もまた、その隣に突っ伏して添い寝するように転がってみる。

 

「可愛かった、ぜ?」
「……あんたにそう言われるの、恥ずかしくて仕方ないんだけど」

 

 躰が弛緩し、思考にも冷静さが戻ってきたせいか、頬を赤らめながらそんな風に言ってみせる霊夢。
 つい先程までは魔理沙の指先に激しく愛されながら何度も何度も『好き』と『愛してる』を叫び続けていただけに、急に頭が冷めた今は恥ずかしさで心が一杯なのだろう。……同じ体験を魔理沙もまた全く逆の立場で幾度となく繰り返してきたことがあるだけに、その気持ちは痛い程に判った。

 

「私は嬉しかったぜ。霊夢がそう言ってくれる度に、感動があったからな」
「……あんたは今までに言われた『愛してる』の数を覚えてるのかしら?」
「数は把握できないが、人数は判るぜ。言ったのも言われたのも霊夢ひとりだからな」

 

 魔理沙の回答に、呆れるような表情を見せる霊夢。
 けれどその表情も一瞬後にはたちまち破顔して、目一杯の笑顔に変わる。

 

「今度は私が、魔理沙を可愛がってあげるわよ」
「お、お手柔らかに頼むぜ……?」
「嫌よ。魔理沙のことを一晩中可愛がって、あなたが何回『愛してる』って言ってくれるか数えてみせるんだから」

 

 くすくすと可笑しそうに言ってみせる霊夢が、可愛くて仕方ないけれど。
 魔理沙だって負けるつもりなんてないのだ。愛される倖せも捨てがたいけれど……やっぱり可愛い霊夢を愛することの倖せだって、負けないぐらいに大きいから。そう簡単には譲ってあげられない。

 

「……別に『愛してる』の回数が重要なんじゃない。そうだろ?」
「ええ、その通りね。相手の人数の方が重要だわ」

 

 頷きながら嬉しそうに微笑んで見せた後、霊夢はぴっと魔理沙のほうに向き直って。
 真っ直ぐな瞳を向けながら、一途な想いを伝えてきてくれた。

 

「私も――『愛してる』って言う相手も言われる相手も、魔理沙だけよ」

 

 ちょっとでも心を緩めれば、今すぐにでも泣いてしまいそうなぐらい。それ程に嬉しさばかりで胸が詰まる想いがした。
 感極まった心をぐっと我慢しながら。魔理沙もまた、精一杯の笑顔で霊夢に応えてみせる。

 

「知ってるぜ」

 

 私自身の心のことも、霊夢の心のことも。
 どちらも疑いようのない程に、真っ直ぐに向き合っているのだから。