■ 183.「泥み恋情」

LastUpdate:2009/10/30 初出:YURI-sis

 ふと目が覚めた瞬間には、涙が溢れて止まらなくなっていた。
 悲しい夢を見たのか、淋しさを垣間見たのか。理由さえも判らない涙には押し止める術さえ思いつかなくて、リトルの目元にはただただ止め処なく熱い物が込み上げてくる。不可思議な躰に訝しさばかりを覚えながらも、とうとう我慢することを諦めながらリトルはそっと指先で涙を拭った。
 欠伸の拍子に涙が出てしまうようなことはあっても、こんな風に本格的に泣いてしまうのはどれ程に久しぶりのことかも判らなくて。拭っても拭ってもほろほろと溢れてくる理由がせめて判ればいいのにと、リトルは何となく切なくなってしまう心と伴に想う。

 

「あなた、泣いてるの?」
「……パチュリー様」

 

 見上げればそこには、いつものパチュリー様の姿。自分でも驚いて居るぐらいなのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれど、リトルの涙を目にしたパチュリー様は何事かとおろおろしてみせて。その様子が、少しだけ有難くて、そして可笑しかった。
 そもそも自室ではなく図書館のテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたらしく、自分の肩に掛けられた毛布の存在に今更ながらにリトルは気づく。夢の中で何を見ていたのかは判らないけれど、この毛布が齎してくれる温もりだけはどこか記憶に新しくて。夢の中で柔らかな温もりを感じていたことだけは、漠然とながら意識できるような気がした。

 

「ど、どこか痛いの? 悲しいのかしら?」

 

 さらに取り乱して下さるパチュリー様の様子に、嬉しい気持ちばかりがじんと込み上げる。私の為に取り乱して下さるというのは、それだけパチュリー様が私のことを気に掛けて下さっているという何よりの証左で。だから少しだけ申し訳ないとは思いながらも、嬉しさばかりを感じてしまうのは仕方のないことだった。

 

「……きっと倖せな夢を見たのだと想います。嬉しくて、泣いてしまったのだと」

 

 確証から口にした言葉ではなかったのだけれど。
 言葉にしてしまえば、成る程その通りなのではないかと自分でも信じられてしまうから不思議だった。