■ 189.「群像の少女性」

LastUpdate:2009/11/05 初出:YURI-sis

 眩しい程の夕日が窓から差し込んでいて。カーテン越しにも床に映える、鮮やかな橙に染まる帳の中で、二人分の影法師だけが長く輪郭を引いていた。
 先輩の目の前で自分だけが裸になっている。そんなちょっとだけ異質な状況さえ、桃子の心には何か沸き立つような感情が生まれている気がするから不思議だった。愛する先輩は制服さえ身につけた普段通りの格好だというのに、自分だけが下着さえ身につけることを許されない全裸同様の格好というのは……なんだかまるで、先輩に飼われてしまったみたいで。先輩だけのものになれた自分を意識できる気がするから、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
 冷たい指先が桃子の肌に触れる度、けれど却って熱いものが触れられた個所には残されていく。初めは擽ったくばかり感じられた先輩の愛撫にも徐々に抵抗感が薄れていって、触れられれば触れられる程に甘い痺ればかりが桃子の躰には残されていくかのようだった。

 

「寒くは、無いだろうか」
「……寒い、っすか」

 

 先輩にそう問われて、ふと気づく。
 つい先程、先輩に制服を脱がされ、下着をも脱がされた瞬間には……季節柄もう冬が近い事もあるのだろうか、、酷く寒さばかりを顕著に感じていたはずなのに。こうして先輩からその事実を問われる瞬間までは、総ての寒さという感覚を忘れてしまっている桃子がそこにはあった。
 いまも桃子の躰に触れている部室の空気を意識すれば、それは酷く冷たいことが判るのに。だけど先輩との時間ばかりを意識して、その寒さを忘れようと思えば――いとも容易く『寒い』という概念は桃子の意識を離れていく。そうして寒さを忘れた躰は、寒いどころか寧ろ自分の躰の裡からじんわりと溢れてくる熱のせいで、少し熱いぐらいだった。

 

「だ、大丈夫っす。熱いぐらいなので」
「そうか。……だが、無理はしないでくれ」

 

 まさに愛し合う間際であるのに。冷静に桃子の躰を気遣って下さる先輩の優しさが嬉しかった。
 何かを確かめながら探り来るような不慣れでぎこちない愛撫は、けれど先輩と同様に不慣れな桃子にとっては却って落ち着けるような気さえする。「……何か変な所があれば言ってくれ」と、予めそう前置きしてから自信なさそうに愛撫を這わせてきてくれる先輩の手は、どこか生真面目な繊細さと優しさを持っていて。桃子にも素直に好感が持てるものでもあったから。