■ 194.「群像の少女性」

LastUpdate:2009/11/10 初出:YURI-sis

 自分の膝の上にモモを座らせれば、もっと近い距離で彼女を愛することができると思っただけなのだが。思わぬ盲点に、ゆみは自分が望んだその行為を一瞬だけ躊躇う。
 けれど、一度でもモモをより近い距離で愛したいと思ったその気持ちは、もう押し止めようが無いことは明らかで。観念するように、はあっとゆみは大きな溜息をひとつ零した。

 

「……仕方ない。モモ、私のスカートを脱がしてもらえるか?」
「い、いいんすか?」

 

 服を脱がされれば、弱気な自分が顕れてしまいそうで躊躇っていたけれど。一度火が付いた欲望を、そんな弱気程度で諦める事なんてできないから。

 

「構わない、頼む」
「はいっ!」

 

 ゆみが頷きながら肯定の意志を告げると。何故だが無性に嬉しそうに、すぐモモはゆみのスカートにその手を掛け始めてきた。
(私は、意志の弱い人間だ……)
 それが判っているから、できることならモモのことをきちんと愛せた後までは、自分を守ってくれる制服という鎧は少しでも脱ぎたくなかったのだが。
 脱がされることで弱みを晒してしまえば、多分……私はすぐにでもモモに甘えたくなってしまう気がするのだ。今の私にはまだ、制服ごと包み込んだ『モモをちゃんと愛したい』という強い意志がある。だが本質の私は自分の強さなどを誇示することなく、本当はいつだってモモに甘えてしまいたいと。愛されたいということばかり考えてしまっているのだから。

 

「スカートは、テーブルのほうに置いておきますね」
「あ、ああ、頼む」

 

 そんなことを考えていると、気づけばモモの手によってスカートを既に脱がされてしまっている私がそこには居た。スカート一枚を失うだけでも、急に冷たい部室の空気が腿に触れてくるような変な感覚こそあったが。……なんとか自分の意志そのものが挫けていないことに気づいて、ゆみはほっと安堵の息を吐く。
(……初めてぐらい、ちゃんと愛してやりたいからな)
 おそらく、ゆみが正直に自分の気持ちを吐露したとしても。即ち『モモを愛する』ことよりも、実は『モモに愛される』ことをずっと望んでいるということを素直に伝えたとしても、モモは嫌な顔ひとつせずに笑ってそれを受け入れてくれるだろう。
 モモのことをきちんと愛したいと思うのは……言うなれば、私のエゴのようなもので。
 最愛の人を幸せに導くだけの力が私にもあるということを他ならぬ私自身が確かめたいと希う、唯の我儘に過ぎない感情なのだけれど。