■ 205.「従者に隷属」

LastUpdate:2009/11/21 初出:YURI-sis

「……私に何をする気だ」

 

 咲夜からまず何かを言われるかと思っていたけれど、何も口にしようとはしない彼女に痺れを切らして魔理沙の方からそう先に言葉をぶつけてみる。すると何が可笑しいのか、咲夜はくすっと小さく微笑みながら妙に優しい目で魔理沙をじっと見据えてくる。

 

「あなたは少し鈍感な所もあるけれど、愚かではない。自分の置かれている状況ぐらい訊かなくても本当は判っているのでしょう?」
「わ、判らないから聞いてるんだ!」
「そう? だったら、お望み通り答えてあげても構わない。――先日あなたが図書館から盗んだ本のおかげで、パチュリー様が現在なさっておられる研究の進捗は半月近く遅れたと聞いているわ。それまで魔理沙の悪行に目を瞑って来られたパチュリー様もこれには懲りたみたいで、とうとう私の元にあなたを『説教』する役目が回ってきた。それだけよ」
「説教、だと……!?」

 

 怒りのあまりに魔理沙はその場に立ち上がりかけて。けれどそうして自分が裸であることを思い出し、慌ててもう一度首から下を布団で覆い隠す。納得できない部分は沢山あるけれど、全裸同然の格好をさせられている現状では分が悪いにも程があった。
 裸を見られることぐらいは諦めるべきなのかも知れない。最悪の事態を憂慮するなら、その程度の恥は覚悟もしなければならないのだろう。……そうは思うのに、なかなか魔理沙は布団を自分の躰から手放すことができないでいた。誰かに裸を見られることは割り切れない程に恥ずかしく、自分の持っている乙女の部分がどうしても踏み切れないで居るのだ。

 

「それで、私は魔理沙を『説教』しようと思うんだけど。魔理沙はどうする?」
「なっ……!? そ、そんなの、逃げるに決まってるだろ!」
「まあ、それが普通よね。それじゃ、逃げるならご自由にどうぞ?」
「……は?」

 

 咲夜はそう言うと、いま自分が入ってきたドアからすすっと脇にずれて、進路を魔理沙に譲る。
 逃げたければ逃げても構わない、ということだろうか。私を『説教』するのだと言う割には簡単に逃げ道を譲ってくれる辺り、咲夜の考えていることが全く読めない魔理沙は却って混乱させられる気がした。

 

「そのベッドの布団は備品だから勿論置いていって貰うわ。それと、私はあなたの『説教』を命令されているからね。あなたの服は返す気がないし、箒も八卦炉も返すつもりはないけれど、構わない?」
「……逃げるなら裸で逃げろってことか?」
「そう取って貰わないわ。どうする?」

 

 どうする、と言われたって。そんなの選択の余地さえない。
 この場に居続けることは、咲夜からの『説教』を甘受することに他ならないのだから。だったら裸の恥ずかしさを覚悟してであっても、ここから逃げる以外の選択肢などありはしないのだ。