■ 207.「男性的な彼女」

LastUpdate:2009/11/23 初出:YURI-sis

 お布団の上に押し倒すと、それだけで椛の表情は女の子らしいものになる。
 いつだって真っ直ぐに一本芯が通っている凛々しい彼女が、けれどにとりの腕の下に組み敷かれた瞬間にだけはこんなにもか弱い表情になる。きっと他の誰も知らない椛の表情を、私だけが独り占めしている。そう思うと、にとりには嬉しすぎてならなかった。

 

「脱がすよ?」
「う、うん……」

 

 頷く言葉さえも弱々しくなり、少女のものになる。
 過去に何度も脱がしたことで勝手知ったる椛の衣服は、押し倒した格好の儘でも脱がすことに然程の苦労さえ必要なくて。椛が緊張に縮こまっている間に、容易くにとりは彼女の衣服を剥ぎ取ってしまう。
 椛が言うには、愛されることは何度経験しても慣れないものであるらしい。にとりを愛してくれる時の椛は、回を重ねる毎により的確ににとりを追い詰めていくことを覚えていくけれど。……確かに愛される行為のそれには、慣れる余地なんて残されては居ないのかもしれなかった。
 無条件に相手に躰を許して、相手の意の儘に弄ばれるということ。自分の意志ではない指先、それも愛する人が与えてくれる緻密な苛みが自分の躰を絶頂へ導くプロセスをただ感じ続けるだけの儀式。慣れようが無い分だけ、けれど却ってそれは毎回新鮮な気持ちで相手を感じることもできるのかもしれない。

 

「ふぁ、ぁ……!」

 

 何度も愛した彼女だから。弱いところなんてとうに知り尽くしている。裸にさえしてしまえばそれだけで、もう椛を追い詰める為に他に必要なことなんて在りはしない。椛が漏らす熱い吐息、少しだけ我慢しようとしている矯正、そして躰そのものの反応。愛する相手が伝えてくれる総ての応えが判るから、あとは言葉にこそしなくても椛が心の裡で渇望しているだけの快楽の刺激を、にとりから与えてあげるだけでいい。

 

「ぁ、ああああっ……! 好きぃっ、にとりぃ……!」
「うん、私も椛が世界で一番好きだよ」
「んぅっ……! ぁ、あああ……!」

 

 硬派な彼女は、普段は恥ずかしがってなかなか『好き』という気持ちをなかなか吐露してはくれない。普段からの誠実な気遣いや優しさ、時にはにとりの為に叱ったりしてくれる総ての行動が、椛にいかに愛されているかをにとり自身に意識させてくれるから、あまり口にしてくれなくても淋しいと思うことはないけれど。
 愛する行為の最中でだけは、何に遠慮することもなく椛は愛の言葉を紡いでくれる。
 にとりの躰に組み敷かれた時だけ、誰よりもか弱い少女の姿で愛を訴えてくれる椛の姿。彼女のそうした一面を、私だけが知っているという自負もあったりして。
 あるいは、独占欲が満たされることで途方もない充足感を感じているにとりの方もまた、椛に負けないぐらい男性的であるのかもしれなかった。