■ 214.「泥み恋情69」

LastUpdate:2009/11/30 初出:YURI-sis

 半ば無意識に口を衝いて出てしまっていた悪態の言葉も、バインドによってベッドの上に拘束されてしまうと、いよいよ実感が伴ってくるせいか封じ込められてしまう。押し黙ったヴィータの様子にくすりと小さく微笑むフェイトの顔が可愛くて、彼女にいまから愛されるのだと思うとますます緊張で何も言えなくなった。
 バインドによって縛られることは嫌いではない。寧ろ、好きだと言ってもいいぐらいかもしれない。もちろん戦闘の場合には論外だし、相手だってフェイト以外の誰であっても嫌だけれど。こうしてベッドの上でフェイトが課してきてくれる優しい拘束は、悪態を吐かずにはいられないヴィータの心を汲んだものだと判るせいか、ちっとも嫌だなんて思えなかった。

 

「ヴィータは、縛られると大人しくなるよね」
「……悪ぃかよ」
「悪くないよ。ただ可愛いなって、そう思っただけ」

 

 可愛い、と言われるのも昔は子供扱いされているようで嫌いだったはずなのに。フェイトが度々口にしてくれるせいか、いつしかヴィータは好きになってしまっているらしかった。彼女の口から『可愛い』という言葉が漏れる都度、どこかむず痒い心地と共に心が温かくなる感覚があって。
 その感情が『好きな相手が自分を褒めてくれることの嬉しさ』なのだと、いつかの日に教えてくれたのははやてだった。
 フェイトが小学校を卒業して中学生になると、少ししか差がなかったはずの身長にも随分と差が付いてしまって。全く成長しないヴィータは今ではもう、少し背伸びをしなければフェイトとキスをすることさえできなくなってしまった。
 そのことを一時は悲しいとも思ったものだけれど。背伸びをしながら唇を求めるヴィータを見て、フェイトが『可愛い』と言ってくれたから。今ではもう成長しない自分の躰さえ、ヴィータにとってコンプレックスでは無くなってしまった。
 フェイトの言葉が、容易く自分の感情や存在を揺るがしてしまう。なのはやシグナム、はやてにさえ覚えない程に大きな感情を、けれどフェイトの言葉からだけはいつだって感じずにはいられない。その理由が、フェイトを愛してしまっているからなのだと。そうヴィータに教えてくれたのもまた、はやてだった。

 

「何、考えてるの?」

 

 押し黙ってしまったヴィータの様子に、小さくフェイトが首を傾げてみせる。
 ヴィータからすれば、そんな仕草をしてみせるフェイトのほうが余程『可愛い』のだけれど。

 

「……別に。何でもねーです」
「そ、そんな風に隠されたら却って気になるよ……」

 

 身長の低いヴィータに、少し状態を屈ませるようにしながらいつもキスをするフェイト。
 いつかキスをした後、静かに『これじゃ私の方が王子様役だね』と漏らした彼女だから。ヴィータから『可愛い』だなんて、絶対に言ってやるつもりはない。
 だって、彼女の言葉のせいで。初めて自分を『お姫様』だと思えたあの瞬間だけは、失いたくないから。