■ 5.「雀の恋心も想うに溜まる - 04」
「いまから私……変なことを口走るわよ?」
「へ、変なこと、ですか?」
「ええ、そうよ。普段の私なら絶対言わないようなこと。……それでもいい?」
半ば警告めいた口調でそう訊いてくるアリスさんの言葉に少しだけ気圧されそうにもなるけれど、一瞬だけ悩んでからすぐにミスティアは頷いて答えた。変なこと、という言葉がどういう意味なのかもわからないけれど。……もしアリスさんを悩ませているものがあるとするなら、それを知りたいと思うのは正直な儘のミスティアの心だったから。
ミスティアが頷いたのを確認してから、はあ、とアリスさんは小さな溜息をひとつ吐いて。
――それから何か意を決したかのように、ミスティアの瞳を真っ直ぐに見据えてきた。
「あなたのことが……ミスティアのことが、好きなの」
それは、あまりにも真っ直ぐにぶつけられた言葉。
信じがたい言葉は一瞬、何かの冗談ではないだろうかとさえミスティアには思えたけれど。真っ直ぐで誠実な眼差し、真摯な表情。想いを訴えてくるアリスさんの真剣さが伝わってくるだけに、疑いを抱くこともミスティアにはすぐに叶わなくなった。
射竦められるのではないかというほどの、アリスさんの鋭い眼差しで頭が真っ白になって。アリスさんが伝えてきた言葉自体はちゃんと判るのに、その意味を頭の中で正しく認識するには少しだけ時間が必要だった。
それでも時間を掛けて、ミスティアにもようやく『告白されたのだ』という事実が理解できて。
「う、うええええ!? ほ、ホントですかっ!?」
恥ずかしさで、顔が一気に熱くなってくる。
きっと自分の頬までもが真っ赤になってしまっていると、鏡を見なくても判った。
「本気じゃなきゃ、こんなこと恥ずかしくて言えないわよ……」
「そ、そうなんだ……本気なんだ」
ふつふつと、静かに込み上げてくる嬉しさがある。
アリスさんを好きな自分のことを知ってしまってから、僅かに数日程度しか経っていないというのに。こんな形でアリスさんの想いを容易く知ることができるなんて……こんなにも果報に恵まれすぎて良いものだろうかと、幸せすぎて逆に不安を覚えるぐらいだ。
「……一応、私にとってはそれなりに覚悟した上での告白だったんだけれど」
「ふえっ!?」
「あ、うん……驚くのも無理ないけれど。良ければ、その、返事を貰えないかなって……」
返事だなんて。そんなの決まってる。
だって私もまた、アリスさんのことを――こんなにも特別に想ってしまっているのだから。
「わ、私も! アリスさんのことが……!」
静かな風の中で、脂が炭に焼ける香ばしい音と匂いだけが流れていく。
本気でなければ絶対に言えない筈の言葉。だからこそミスティアもありったけの本気を言葉に籠めながら、愛しい人にぶつけてしまうことができた。