■ 6.「公明正大なので嘘は苦手です - 01」

LastUpdate:2010/04/06 初出:YURI-sis

「新聞なら間に合ってるわ」
「……第一声からそれですか」

 

 神社の境内に足を付けるよりも先、牽制のように飛んできた霊夢さんの言葉に、文は思わず苦笑してしまう。
 箒で集めた枯葉を散らさないように気をつけながら、静かに文は霊夢さんのすぐ傍に降り立つ。挨拶代わりにカメラを向けてシャッターを一枚切ると、ファインダーには期待した笑顔ではなく、はあ、と溜息を吐く呆れ顔の表情が収まった。

 

「相変わらず、飽きもせず写真を撮ってるのねえ」
「飽きるも何も、これが私の天分ですから。――あ、これ今日発行の新聞です」
「鴉もせめて三歩あるくまでは忠告を覚えてるとか無いのかしらね?」

 

 ぶつぶつと苦情を漏らしながらも、それでも霊夢さんは必ず最後にはちゃんと新聞を受け取ってくれる。それに毎回受け取る際の文句こそ欠かさないけれど、内容にも全部目を通してくれていることを文はちゃんと知っていた。
 もし間違えたことを記事にしてしまえばそう指摘してくれるのは勿論、他にも記事にすべきではないことを書いてしまった時、もっと良い書き方があった時なんかにも霊夢さんは逐一文にそのことを伝えてきてくれた。自分の新聞を読んでくれている人がいることを文もちゃんと知ってはいるのだけれど、率直な反応を文に直接返してきてくれるのは霊夢さんの他にはいなくて。
 だから文も、いつしか新しい新聞を出す時には必ずその日のうちに霊夢さんの元にも届けることにしていた。他の誰に読んで貰うよりも、まず霊夢さんに読んで欲しい――いつしか文自身、新聞を作る傍らではそんなことを考えてしまうようにもなっていたからだ。

 

「今夜は天麩羅にしようかしら?」
「油切り紙に使っても構いませんが、せめて一回読んでからにして下さいね……」
「……冗談よ、判ってるわ。今回もちゃんと読ませて頂くから」

 

 そう言うと縁側に箒を立て掛けて、霊夢さんは自宅のほうに上がられて。

 

「お茶ぐらい、飲んで行くのでしょう?」

 

 ぽつねんと見つめていた文に、態々そんな風にも言ってくれるから。
 うんうんと強く何度も頷いて答えながら(やっぱり霊夢さんって、好きだなあ)と、頷くのと同じ数だけ何度も文は心の中に反芻するのだった。
 さっと上がった割には綺麗に整えられている霊夢さんの草履の横に、倣うように自分の下駄を整えて並べてから。勝手知ったる居間に上がり、座卓の前に腰を下ろしてくつろいでいると、程なくして霊夢さんが二人分の湯飲みと急須をお盆に乗せて持って来て下さった。

 

「今日は萃香さんはいらっしゃらないのですか?」
「萃香なら一昨日から下のほうに行ってるわよ」

 

 下のほう、というのは地下のことだろう。だとするなら……萃香さんが来た二日前から、きっと旧都のほうはさぞや騒がしいことになっているに違いない。鬼という存在はそれだけ旧都に住む者達にとって強い影響を持つ存在なのは間違い無いわけで……今すぐ地下に行って取材するべきかどうか、文は少しだけ真面目に悩んでみたりもする。

 

「はい、どうぞ。『勇儀のやつと痛飲するんだ』って萃香は言ってたけれど?」
「ありがとうございます。なるほど、痛飲ですか……」

 

 お茶を受け取りながら、思わず『痛飲』というその単語に口元が引きつる。
 底無しのお二人のことだ、一昨日からとはいえ今現在だってずっと飲み続けているに違いないだろうし、きっとこの先も数日に渡って飲み続けることだろう。そんな最中を訪ねようものなら文もまた蟒蛇二人の餌食になるだけなのは間違い無く、一瞬浮かんだ『取材』という意欲は忽ち霧散してしまった。