■ 7.「公明正大なので嘘は苦手です - 02」

LastUpdate:2010/04/07 初出:YURI-sis

「……あれ。もしかしてこれ、良いお茶ではないですか?」

 

 考え事をしながら口にしていたから気づくのが遅くなってしまったけれど、何度か喉を潤すうちにお茶の味が普段霊夢さんに頂くものとは随分と違っていることに文もようやく気づく。味わい自体が随分と濃厚な割に、意外なほど渋味は少なく感じられて。芳しい香気も一般品の比ではない高貴さを持っていることを今更ながらに痛感する。
(まるで『お客さま』みたいな――)
 たかがお茶ひとつ。されど、お茶ひとつ。
 こんな一級茶葉で持て成されるなんて初めてのことだから、文は素直に戸惑ってしまって。どうして霊夢さんが急にそうしたお茶を供したのか判らなくて、ただ訝しさと不思議さとから霊夢さんの瞳を文がじっと見つめると。
 そうした文の戸惑いを知ってか知らずか、いつも通りの穏やかな眼差しで霊夢さんのほうからも見つめ返されてしまう。

 

「たまにはこういう茶葉もいいでしょう?」
「そ、そりゃ私も嫌いじゃありませんが……。で、でもどうして?」
「別に理由なんて無いわ。何となくそんな気分だったから、かしら」
「ですか……」

 

 霊夢さんがそう仰るからには、本当に『何となく』だったのだろう。そう思うと急に疲労感が襲ってきたような気がして、文はがっくり肩を落とす。

 

「あら、どうして残念そうにするの?」
「……うえ!? べ、別に残念だなんて」
「特別なお茶を出されたから、何か期待しちゃったのかしら?」

 

 にんまりと妖艶に笑む霊夢さんの表情に驚いて、文は怯むように座卓の前で座りながら後ずさる。
 ――気落ちした理由。まさかその総てを知られているだなんてことは思いもしないけれど……実際に霊夢さんに『期待』して『落胆』した文の心を言い当てられたかのようで、思わずどきっとしてしまう。

 

「き、期待なんて、何もしてませんよ! するわけない!」
「……嘘を吐く時に顔の前で指先を立てるのは、判りやすいサインだからやめた方がいいわよ?」
「うえっ!?」

 

 本当に人差し指をピンと綺麗に立ててしまっていた自分の手を、慌てて文は背中に押し隠す。
(こ、こんなの、本当に『嘘を吐いていました』って言ってるようなものじゃないか……!)
 言い当てられたことで思わずリアクションを取ってしまってから、心の中でそう後悔するけれどもう遅い。より一層、嬉しそうににんまりと笑む霊夢さんの笑顔を見せつけられてしまっては――もう何も言い逃れできないのではないかと、文には絶望めいてさえ思えた。