■ 8.「公明正大なので嘘は苦手です - 03」

LastUpdate:2010/04/08 初出:YURI-sis

「何がそんなに可笑しいんですか……」

 

 半分は畏怖の気持ちから、霊夢さんの笑顔にそう文が文句を付けると。
 すると今度は、くすっと本当に可笑しそうに霊夢さんは微笑まれた。

 

「別にさっきまでは可笑しくて笑ってたわけじゃないわよ。ただ、ね」
「……ただ、何ですか?」
「嬉しかったのよ。嬉しくて、思わず笑顔になってしまったの」

 

 そう言ってから静かに微笑まれる、先ほどと同じ表情の霊夢さん。
(ああ、確かに――)
 先ほどは心を言い当てられそうな畏怖からか、真っ当にその笑顔を解釈することができなかったけれど。確かに言われてみればその表情は、とても嬉しそうで……そして幸せそうな笑顔に他ならなかった。

 

「文、私ね。――あなたの気持ちを知ってるわ」

 

 嬉しそうな表情そのままに。
 穏やかな声で囁かれる言葉は、不思議と疑いさえなく文の心に沁み入ってくる。

 

「私の気持ちを、ですか……?」
「ええ。あなたが私に寄せてくれている気持ちを。……確かめてみてもいい?」
「は、はい」

 

(確かめる、って。どうするんだろう……?)
 疑問に思いながら。傍らでは、期待にも似た気持ちを抱きながら。
 待ちわびる文の頬に、そっと優しく宛がわれる手のひらがあって、一瞬ぴくりと驚いてしまう。他人に頬を触られるだなんて経験は今まで無かったから、心には戸惑いばかりが溢れてくるのに……とても心地よい温かさを纏った感触のそれは、自然と縋りたくなるほどで。
 要約すると……霊夢さんにこうして触られるのが、不思議と気持ちよくて。

 

「――文、私のこと好きでしょう?」

 

 だからだろうか。本来ならすぐに否定してしまえるはずの言葉にも。
 実際にその倖せを感じている文には、もう否定することができなかった。
 否定する言葉が浮かばなければ、否定しなければという意志さえ生まれない。
 黙っていれば肯定することにしかならないと判っているのに――それでも文には言葉を紡ぐことができなくて。霊夢さんが半ば確信的に訊いてきたその言葉に、気づけば頷いてさえしまっていた。