■ 9.「公明正大なので嘘は苦手です - 04」

LastUpdate:2010/04/09 初出:YURI-sis

「どう、して……?」

 

 掠れた言葉で、率直に文はそう訊ねる。
 演技が上手いほうだという自信こそ無いけれど、だからといって気持ちを隠すのが下手だとも思わなかった。魔理沙さんやアリスさんといった、自分の気持ちを隠すのが下手な方々に比べれば、自分のこの気持ちをまさか悟られているだなんて夢にも思わなかったことなのに――。
 なのに、霊夢さんは知っていたのだ。いつしか文が抱いてしまっていた、霊夢さんに対する他の誰とも違う特別な想いに。……今まで色々と理由を付けては霊夢さんの元へ遊びに出向いていた、その不純な動機を全部知られていたのかと思うと、急速に恥ずかしさもまた文の心には込み上げてくる。

 

「たぶん、明確なきっかけのようなものは無かったと思うわ。ただ……文が都度に私の元を訪ねてくれるようになって、私と一緒に下らない話をしながら笑ってくれる時間を望んでくれるようになって。そうこうしているうちに、何となく気づいてしまった、というのが正直な所かしら」
「な、何となくですか……」
「ええ、何となく。漠然とだったけれど――文が私を好きでいてくれるんだな、って」

 

 態度にこそ出ないように努めていたつもりだけれど。思えば、霊夢さんの傍に居られる時にはあれほど倖せを心の中で噛みしめていたのだから……『何となく』という曖昧な回答には承伏しがたい気持ちを覚えつつも、確かに雰囲気とか、そういった伝わってしまうものがもしかするとあったのかもしれないとも思う。
 想いを伝えてしまいたいと考えたことなんて、何度でもある。伝えてしまえたならと、願ったことだって数え切れない程で。もし霊夢さんにこの想いを伝えたなら――果たして何と答えてくれるのだろうかと、期待と不安に満ちた想像に心を巡らせたことも何度だって。
(……知られてしまった以上、無かったことにはできない)
 上手く隠すことができず、そして上手く偽れなかった以上、全部無かったことにできるタイミングというものはとうに逸していた。だから……悔いる気持ちが全く無いわけではないけれど、想いを知られてしまったこと自体は最早仕方が無いと思うしかない。
 ――けれど、文にはどうしても納得できないことがあった。
(私の気持ちを知っているのに)
 霊夢さんの様子は、普段とあまり変わらないようにさえ見えるのだ。ほんの少しだけ笑顔が多くて、饒舌な一面を見ているような気こそするものの、その程度の変化では……知り及んでしまった文の気持ちを、霊夢さんが果たしてどのように意識してくれているのかは皆目見当も付かない。

 

「霊夢さん、は」
「うん?」
「そ、その。霊夢さんは……私の気持ちを知って、どう思われましたか?」

 

 だから、率直に文は言葉をぶつける。
 自分の心を全部知られてしまった以上、相手の心も全部知りたいと思うのは当然のことだから。