■ 12.「公明正大なので嘘は苦手です - 05」

LastUpdate:2010/04/12 初出:YURI-sis

「……知ってるかもしれないけれど私、面倒だから嘘は苦手よ。だから文がそれを訊くっていうのなら、私は包み隠さず正直に答えてしまうわ。正直に答えることで困らせてしまったりとか、文に与える影響なんて気にもしないわ。――それでもいい?」

 

 嘘を『面倒』だと言い切る霊夢さんの性格は、なるほどとても彼女らしいと文には思えた。
 言葉の言い回しからして――きっと自分の気持ちに霊夢さんが応えてはくれないことを、文は何となく悟る。それでも明確な言葉で拒絶されない限り、私は自分の気持ちを諦めることもできはしないだろうから。

 

「お願いします。霊夢さんの正直な気持ちを、是非聞かせて下さい」

 

 だから文は迷い無くそう答えた。
 振られるなら振られるで仕方の無いことだと思えた。霊夢さんの口から告げられる拒絶の言葉――それは想像するだけでも怖いものではあるけれど、こうして霊夢さんに気持ちの総てを知られてしまった以上は、結論づけられないまま燻る気持ちを抱えているままのほうがきっと辛いから。
 そもそも自分の持つ魅力が霊夢さんに相応しいなどとは、文には到底思えなかった。霊夢さんは誰から見ても本当に魅力的な方で、それ故に文に限らず想いを寄せる相手は少なくなくて。……そして自分を除く霊夢さんに心を寄せる方々もまた、文から見て本当に魅力的であるように映るからだ。
 カメラを構える際にはいつも、被写体が持つ魅力の全部を映したいと思っている。そんな文だから、魔理沙さんや紫さん、萃香さんや早苗さんといった霊夢さんへの想いを意識しておられる方々、あるいは意識こそしていなくても無意識のうちに心惹かれている方々の魅力を、心から思い知る程によく知っていた。……なればこそ文自身の中でも自分の評価は著しく低く、霊夢さんに選ばれないのも当然のこととさえ思えるのだ。

 

「――嬉しかったわ」

 

 少しの間があって、霊夢さんの口から零れた言葉。
 その言葉に文はほっと胸を撫で下ろす。少なくとも迷惑で無いだけ良かった、と。

 

「嬉しくて嬉しくて、文の気持ちに気づいて間もない頃は上手く眠ることもできなかった」
「……そう、なんですか?」
「ええ。だって、その……誰かに『想われる』なんて、初めてのことだったから」

 

(あれだけ色んな方から想われているっていうのに――)
 内心で軽くツッコミを入れつつも、文には霊夢さんの告げてくれる言葉が嬉しすぎて、じんと心かが温かくなっていくのを意識せずには居られなかった。文の想いひとつの為に、最愛の人がそれ程にも心を乱してくれるだなんて。
(……あれ?)
 鈍感な霊夢さんに想いを気づかれさえしていない大多数の方を不憫に想う傍ら、ふとしたことに文は唐突に気づかされる。あれほど判りやすい魔理沙さんや紫さんの想いにさえ霊夢さんは気づかないというのに……なのにどうして、文の想いにだけは気づいて下さったのだろう。
 意識すれば意識する程に心が熱を持ち始めてくる。――期待してはいけない、期待してしまってはいけないと何度も心に言い聞かせようと想うのに、胸の裡からは止め処なく抑えきれない感情が溢れてくる。