■ 104.「緋色の心」

LastUpdate:2009/04/14 初出:YURI-sis

「……後悔、するかもしれないわよ」
「しないです。絶対に……する筈が、ないです」

 

 強い信念が天子に言葉を紡がせる。初めての逢瀬の際には、天子のことを『恋人』をして扱うことをアリスさんは選んで下さったのに。もしかしたらいま天子が望むことは、折角頂いたアリスさんのその気持ちを、無下にしてしまうものなのかもしれないけれど。
 それでも天子は、アリスさんのものになりたい。アリスさんのものになることを自分の意志で選びたいから。

 

「……んっ……!」

 

 まるで不意を突くみたいに。唐突に押し合わせてきた唇には、瞼を閉じる暇さえもない。元より仰向けになっていて、しかも枕の下に両手を封じられている天子には避けようも防ぎようもないことではあるのだけれど。気付けばアリスさんの唇は的確に天子の唇に重ねられていて、目と鼻の先にアリスさんの顔があって初めてキスをされている自分自身に気付くぐらいだ。今まで何度かアリスさんと交わしたような優しい口吻けではなく、強い力で互いの唇の形を押し潰すように求めてくる積極的な口吻けに、たちまち天子の心は早鐘を打つかのように高鳴ってくる。
 さらには唇に僅かな隙間が開かれて、その境目から差し出されてくる舌先が幾度か天子の唇に突っつくように触れてきて。……その行為が示すもの、アリスさんが求めていることがすぐに判ったから。天子もまたおずおずと唇を開いて、アリスさんの舌先の侵入を受け入れた。

 

「ふぁ、んぅっ……!」

 

 あまりに激しい求められ方に、思わず声が漏れ出てしまう。
 感じられるそれは、恋人同士が愛おしさから唇を交わすキスとは何もかもが違っていた。天子の唇を貪り奪っていく、一方的な咬むような口吻け。差し入れられたアリスさんの舌先が、思いの儘に天子の口内を蹂躙して、犯し尽くしていく。

 

「……んぁ、ぁ……」

 

 口内を犯されているものだから喘ぐことさえ儘ならず、息をすることさえ自由にはならない。口内という慣れない場所を責められる感覚と、息苦しさが相俟ってなんだか変な感じがする。裸にされてはいても、まだ性器を責められているというわけではないのに……頭さえぼうっとしてくる苦しい感覚の中に、不可思議な快楽のようなものが少なからず入り混じってくるのはどうしてなのだろうか。