■ 118.「端書33」
「ふぁ、ぁ、ぅ、んっ……!」
秘所を貪るように求めてくる指先に乱されて、一際高い声がレミリアの喉元から漏れ出てしまう。声を我慢する為の努力は一応しているつもりなのだけれど、少しだけ乱暴な指先がこうも犯すように求めてくるのでは、その努力も儘ならないものになってしまっていた。
そう、それは本当に……普段の咲夜からはなかなか想像し辛いぐらいの、荒々しい指遣いで。普段は完璧でいて瀟洒な彼女であるだけに、少なからずレミリアは驚いている。どんなことがあっても自分を見失わないかに思えていた咲夜が、レミリアの躰を貪ることについてだけは我を忘れてくれている事実。それは、レミリアの心に静かな喜びを与えてくれていた。
荒ぶる愛撫も、それだけ咲夜が一心に求めてくれている証拠なのだと思えば、多少なりに辛くはあっても嫌だとは僅かにさえ思わない。時折、陰核に刻まれる硬い爪の感触に悲鳴を上げそうになることだって、我慢できる。
「お、お嬢様……」
「なあに?」
名前を呼ぶ咲夜の声が、責められているレミリア以上に呼吸を乱れていることが少しだけ面白い。
実際、少しだけ冷静な視点から自分と昨夜の裸体を俯瞰してみれば。秘所を弄られているレミリア自身よりも、責めている側の筈の咲夜のほうがよっぽど疲労しているように見えたし、肌には僅かに輝く汗がびっしりと浮き出ていた。
「……すみません、上手くできなくて」
「ああ、そんなこと。……気にすることじゃないわ」
「ですが。……たまに痛かったり、しているのではないですか?」
その言葉に、少しだけレミリアは驚く。
我を忘れるように求めてきているのは自分のほうだろうに。……こんな状況でも妙なところで聡いのは、さすが咲夜といった所なのだろうか。
「何度も言わせないで、気にするようなことじゃないわ。……初めて、なのでしょう?」
レミリアもまた初めての逢瀬ではあるけれど、案外犯されている側のほうが冷静に相手をみつめられるものなのかもしれない。責めてくる咲夜の指遣い、息遣い、声、表情。総ての要素が、彼女にそうした経験がないことを簡単にレミリアに教え知らしめてくれた。
「……それは、そうですが」
「だったら、構わないわ。あなたが……いままでその指先で誰かを愛したとしたら、そのほうが私には耐えられないのだから」
もしも咲夜が、私よりも前に誰かを愛していたかなんて――想像するだけでも恐ろしいことだ。もちろん咲夜がレミリアと出会う前にどんな風に生きていたとしても、その過程で誰と恋をしたのだとしても、それをレミリアが咎めることはできないけれど。それでも願わくば彼女にとって初めてであり、最後でもある唯一の人でありたいと願うのは、愛する心には常に付きまとうものではないだろうか。
「初めは不慣れでいいわ。少しずつ、私と愛し合うことで慣れて行けばいい。……違う?」
「……そう、ですね」
咲夜は静かに、こくりと頷いて答えてみせる。
頷いた後に見えた昨夜が微笑む表情のそこに、もう焦燥の色は存在しないみたいだった。