■ 44.「緋色の心」
「こっちに来て」
「あ、はい……」
「ええ。じゃあそのまま、ここに座って?」
アリスさんが指し示すのは、アリスさん自身の膝。
その意味がすぐには判らなくて。けれど、一瞬後には判ってしまって。ちょっとだけ天子は嬉しいと同時に、恥ずかしくなってしまう。
「ええと、失礼します……」
少しだけ躊躇いながらも、天子は言われるままアリスさんの膝の上に座る。
椅子に腰掛けるアリスさんの膝の上に、さらに腰掛ける天子。きっと私の身体は重いのに――そう思っているうちにも、後ろからアリスさんに両手で抱き竦められてしまう。
「いいの。そんなの気にしなくて、いいのよ」
「で、ですが」
「あなたが、そんな風に気遣ってくれるのは嬉しいけれどね」
天子の身体を抱き竦めていたうちの片手が、さわさわとそのまま天子の頭を撫でる。少しだけ慣れない感覚はむず痒くて……だけどそれ以上にとても安心できて、心地良くって。アリスさんが頭を撫でて下さる感覚に身を委ねていると、天子は何も言えなくなってしまう。
「ねえ、天子。あなたは誰のもの?」
それでも、その問いかけには。もちろんすぐに答えることができる。
「私はアリスさんのものです」
「ええ、あなたは私のもの。私がひとりじめするって、約束したのだから」
「……ふぁ……」
さわさわと、頭を続けて撫でられながら。
首筋の裏、うなじの辺りに柔らかなアリスさんの唇が触れてくると、もう天子には身動きをすることさえできなくなってしまう。
「あなたの服も、食事も。全部私に面倒を見させて? あなたが私のことを好きだと言ってくれるように、私だって天子のことが好きなのだから……面倒を見たいのよ、私が」
「ですが……」
「あなたに綺麗な服を着せて、こんな可愛い子が私の恋人なんだってみんなに自慢したいの。あなたに美味しい料理を毎日食べさせて、あなたが私の元から離れられないようにしたいの。だから全部これは私の我儘なんだけれど……ダメかしら?」
狡い、と思う。
そんな言い方、絶対に狡いと思うのに。
「……ダメじゃない、です……」
結局の所、天子だってアリスさんだけのものになりたいという願望を何よりも強く抱いているのだから。そのことを盾にして説得されてしまえば、何も言い返せなくなってしまうのだ。