■ 48.「緋色の心」
部屋の灯りを落とすと、カーテンを締め切った部屋はすぐに真っ暗になる。もうこの部屋に入ることは許されないのだ、と思うと少しだけ淋しい気持ちにもなるけれど、それも一緒に住むことを真剣にアリスさんが考えて下さった上で出された結論なのだと思えば、天子の心にも遵守したいという意志が生まれてくる。
「次の部屋は……案内するまでもないかしらね?」
後ろ手に部屋の扉を閉めたアリスさんが、隣の部屋のドアを指さしながらそう訊いてくる。
アリスさんの指し示す先には、つい先程まで天子が眠っていた寝室がある。その部屋のことなら確かに判るから、アリスさんの言葉に天子は頷いて答えた。
「じゃあ、ここは飛ばして次の部屋ね。次はあなたの部屋だけれど……ああ、そうそう」
「はい?」
「あなたの部屋にも私の部屋にも、ベッドはないわ。元々独り住まいだから、毛布は予備があっても寝台はひとつしかないのよ。……あなたが必要だと思うなら人形に作らせるけれど、もし良ければ」
少しだけ頬を赤らめて、アリスさんがそう言って下さるのが嬉しい。
もちろん、天子はその提案に躊躇いもなく頷いて応える。
「はい。私もアリスさんと一緒に、眠りたいですから」
「……ありがとね、天子」
「い、いいえ! 私の方こそ、たくさんお礼を言わなきゃいけないのに……」
「そのことは、私の我儘なんだって言ったでしょう?」
そう言って、くすくすと微笑むアリスさんに。つられるように天子も微笑み返す。
何気ない遠慮とか、譲り合いとか。そんな些細なことにさえ、なんだか少し擽ったい倖せを感じてしまう。