■ 52.「端書13」
好きな人の指先が、私の躰の中で蠢いている。
彼女の指先の気まぐれひとつで、どんなにも躰や心を乱されるということ。
それはいま、この瞬間だけは。限りなく彼女のものになれているという絶対的な事実。
「アリス、好きいっ……」
その事実が、咲夜に総てを許してしまう。本来なら咲夜の心も躰も総てお嬢様のものでなければならないと、他ならぬ咲夜自身が自覚していることであるというのに。こうして躰をアリスに委ねていられる瞬間だけはお嬢様のことを忘れて、あたかもアリスの人形のひとつになれたかのように錯覚することができた。
お嬢様の従者であれることは、咲夜にとって自身を構成するひとつの存在意義のようなもので。だからこの主従関係を辞めたいだなんてことは、ただ一度も考えたことさえない。きっとそれはお嬢様にとっても同じことで、咲夜がお嬢様の従者であれる自分を誇らしく思っているように、お嬢様もきっと私を従えているご自身を誇らしく思って下さっていると――誇張でも妄想でもなく、正直な心からそう信じることができた。
それでも、主従の絆と恋情は全くの別物で。お嬢様は霊夢のことを愛してしまっておられるし、咲夜は咲夜で……パチュリーさまの図書館を足繁く訪ねてこられる人形遣いに、いつしか恋してしまっていた。
「私も好きよ、咲夜」
「あ、アリスぅ、アリスぅっ……!」
優しい口吻けが、咲夜の唇を塞いでくれる。アリスの吐息で口腔が一杯にされてしまうと、あまりの酔いに頭がくらくらするみたいな感覚さえあった。長い長い口吻けの傍らでは現在進行形で咲夜の膣はアリスの指先によって責め立てられていて、たちまち咲夜は息苦しくなってしまう。それでも――性的な時間においてだけは、誰よりも咲夜を統べるアリスが与えてくれる苦しさである以上、咲夜にはそれを受け入れるという他の選択肢は持ち合わせていない。
「んぅっ……! んうううっ……!」
涙が溢れて視界が幾重にも滲む。息苦しくてどうにかなってしまいそうなのに、それでもアリスの責めの手は僅かにさえ弱まってはくれない。
最初に愛したのは、多分図書館で見た優しいアリスだった筈だけれど。いまは、こんなにも咲夜を激しく責め立てて、苦しめてくれるアリスのことを。咲夜はどんなにも抗いがたい心で、愛してしまっていた。