■ 60.「偏屈な言葉」
「ゅ、ゆう、ぎ……」
「うん?」
「お、お願い……直で、触っ……」
殆ど哀願するかのような語調で吐き出されてしまったその言葉さえ、パルスィにとって無意識のうちに漏れ出てしまった本音なのかもしれなかった。勇儀の力に、魅力に、そして愛撫に。総てに完膚無きほど打ちのめされて初めて、ようやくパルスィが吐き出すことができたおねだりの言葉。勇儀は少しだけ驚くような顔をしてみせて、けれど一瞬後には優しく微笑みながら頷いてくれた。
乱暴なのも全部、勇儀にとって演技でしかないのだろう。私が心を裸にして、素直な気持ちのままの言葉を勇儀に訴えることができるようにするための儀式のようなものなのだと――そう、パルスィには確かなものとして思うことができた。パルスィがもしも勇儀のことを本気で拒めば、きっと彼女はそれをすぐに察知して離れてくれるのだろうし。パルスィが……本気で勇儀のことを拒めないうちは、その裏に隠れた恋慕の情も簡単に読み取られてしまっているのだろう。
「脚、閉じちゃわないでね」
パルスィのスカートの中で、勇儀の指先は少しずつショーツをずり下ろしていく。何度こうして抱かれてもまだ慣れることのない擽ったさに耐えながら、パルスィは何とか頷いて勇儀の言葉に応えた。パルスィの股間に差し入れられ、押さえつけられていた勇儀の膝がようやく両脚の間から抜き取られて。……かと思うと、その一瞬あとにはパルスィが身に着けていたショーツもまた、手早くずり下ろされてしまっていた。
熱い蜜に塗れた坩堝が、ひんやりと冷たい空気へと直に触れる感覚がある。パルスィの躰中の神経という神経に、張り詰めるかのような緊張感が齎されて――それでもパルスィは、恥ずかしさと緊張のあまりに脚を閉じてしまうことだけは、なんとか押し留める。勇儀に言われるまでもなく……直接触って欲しいと願ったのは、パルスィの側なのだから。その意思を、言葉に上手く表せないというのなら、せめて態度で示したかったのだ。
「んぁ……!」
元々薄布一枚しか隔てていなかった愛撫。けれどその僅かな布地の隔たりを失っただけで、勇儀の指先は鮮烈なほどに響く快感をパルスィの躰に直に与えてくるかのようだった。勇儀の指先が軽く撫でるだけで触れられた箇所はじんじんと疼くような熱を帯び、確実にパルスィの躰を追い詰めていく。
きっと勇儀がその気になれば、パルスィの躰を果てさせるなんて本当に容易いことで。それなのに、勇儀は少しずつ少しずつパルスィを苛むだけで、果てに及ぶだけのきっかけを与えないように静かな愛撫だけを繰り返していく。
(お願い、勇儀ぃ……)
それは声に出したつもりの言葉だったのに、けれど喘ぎ乱された呼吸の中に入り混じって実際には声にならなかった。心を裸にされてしまったパルスィは、もうここにいるのに。それでもパルスィの身体をじりじりと灼くように追い詰めるばかりの刺激。それは今までのように演技からではなく――きっと勇儀が本心から私のことを辱めてくれているのだと気づいて。僅かに生み出されかけていた抵抗の意思を、自分からパルスィは封じ込めた。
「気持ちいい?」
「……は、ぅん……っ! き、気持ち、いい……です、っ……」
挑発するような勇儀の言葉にも、パルスィは素直に頷くしかできない。
ここでパルスィが頷かなければ、勇儀はその指先の愛撫を止めてしまうだろう。今もなおパルスィの躰を責め立てるのは、気が狂いそうなほどの微弱な快楽ばかりだけれど。この指先を今止められてしまえば、私はそれ以上に気が狂ってしまうだろうから。
それに……演技としてではなく、本心から私を苛めたいと勇儀が願ってくれるというのであれば。……私にはそれを拒むことなんて不可能なことで。
何故なら、ただ彼女の玩具にされてしまいたいと希うような想いを。パルスィのほうもまた、きっと勇儀に負けないほど強く抱いているのだから。