■ 63.「端書16」
(――いやらしい)
心の中で、強い軽蔑を抱く。
それでも指先の動きを、僅かに休ませることさえできない。
加速する指先が求めるのは、ただ一度だけ記憶に残す彼女の――勇儀の指先。力強い指先で、けれど乱暴ではなく繊細に近いような。そんな複雑な愛撫に責められて、呆気なく達してしまった――あの一夜のことを、何度も心に馳せながら、パルスィは自身の秘所に指先を這わせた。
甘蔗のように狂おしいほど甘く、けれどきつい山葵のような鈍い痺れを残す指先。あの夜に一度きり、へべれけのような深酔の勢いで抱いてくれた勇儀の指先を、できるだけ克明に思い返しながらパルスィは指先を這わせていく。喘がされる対象としての自分を除いた意思を潜めて、責める指先からパルスィ自身の感覚を遮断していって。ただ、勇儀に責められている自分の姿だけをそこに描く。
「ゆう、ぎ、ぃ……」
名前を呼べば、それだけでイメージはより鮮明になる。いつも彼女が差し伸べるのは、温かで優しい手のひらばかり。けれど、あの日だけは。あの夜だけは――嘘みたいに激しく、パルスィの躰を求めてくれたのを今でも強く覚えている。
(……本当に夢だったのではないだろうか、なんて)
そんな風にさえ思えるほど、あの日の勇儀はいつもと違った表情を見せてくれた。
実際、翌日に勇儀が何も覚えていないことを知った瞬間には、昨日の夜の記憶総てがきっと嘘なのだと、そうパルスィには思えてならなかった。そうでないと確かな実感を伴って思うことができたのは、昨晩激しく求められすぎたあまりに、立ち上がろうとしても腰に力が入らなかった瞬間だろうか。
優しい勇儀は好きだけれど。……あの日みたいに、優しくない勇儀も好きだと思えた。優しいということは、もしかすると心を偽るということなのかもしれない。あの夜の優しくない彼女の求める指先こそが、真実勇儀がパルスィに対して抱いてくれる感情の儘のものであるとするなら。
きっと私は……幾千の優しい言葉よりも、あの指先ひとつが欲しい。