■ 84.「微熱」
自分もいま身に付けているはずなのに。霊夢のドロワーズに直接指先が触れてしまうと、そこに感じる綿生地の感触ひとつにさえ魔理沙は逐一どきどきさせられる思いがした。冷たい感触の中にも、どこか霊夢の温もりが宿っている気がして。さらさらとした綿生地ならではの感触の中にも、霊夢の汗や匂いの存在をそこに感じることができる気がして。大好きな人が躰に一番近い場所に身に付けている衣服だと思うと、それだけで否応なく巡らされてしまう想像があって、心をどうにも落ち着かせることができない。
「魔理沙」
「あ、ああ。わかってる……」
霊夢に促されて、魔理沙は少しずつドロワーズをずりずりと脱がせていく。魔理沙が外から触れる感触とは違って、下着の内側は相応に汗ばんでいるのだろうか、初めのうちにはドロワーズはなかなか霊夢の躰にぴったりと貼り付いて動かしにくかったのだけれど。
けれど、それもドロワーズをずり下げていくうちに少しずつ抵抗が軽くなっていく。膝のあたりにまでドロワーズの端が差し掛かると、あとは脱げ落ちるかのように簡単に膝下まで脱がせることができた。
ドロワーズに覆い隠されて見えなかった霊夢の下半身の総てが、今はこんなにも近すぎる距離の中で怖いぐらいにくっきりと魔理沙には見確かめることができていた。汗ばんで、ほんのりと薄い紅色に蒸れた下腹部や秘部。知りたいと思っていた霊夢の総てが、あたかもそうした隠匿すべき場所に全部詰まっているような気がして。その総てをこうして知り得たいま、魔理沙はその魅惑のあまりに、すぐにでもどうにかなってしまいそうだった。
「ま、魔理沙ぁ……あ、あんまり、見ないで」
「……お、おう。す、すまない……」
言葉ではそう答えながら。けれど魔理沙は、まるで魅入られたかのように霊夢の秘所から目を逸らすことができなかった。
はあっ、と諦めたるのように霊夢はひとつ大きな溜息を吐いてみせる。
「魔理沙、ちょっと手を貸して」
「ああ……」
魔理沙の両腕を補助にしながら、ゆっくりとした動作で霊夢は便座に腰掛けていく。
ひんやりと冷えた便座が冷たいのか、少しだけ霊夢は不快感を顔に滲ませながら。お尻と便座との間に折り込まれてしまったスカートの一部を、丁寧に外していく。
「魔理沙」
「……あ、ああ、すまない。さすがに、そうだよな」
そう言ってから、魔理沙は霊夢に対してくるっと背を向ける。
少しだけ惜しい気もするけれど、魔理沙はあくまで霊夢の補助としてついてきたのだから。彼女が弱っていることにかこつけて、これ以上に霊夢の総てを知り得たいと思うのは、ただの我儘でしかないのだから。
「……ええ、見ないでくれるのがマナーだと思う。だけどもし、魔理沙が――」
ぎゅっと、服越しに魔理沙の背中に触れてくる霊夢の指先がある。
その感触が示す意味が、少なからず魔理沙にも判るような気がして。霊夢の二の句を待たずに、魔理沙は意を決して自分の意志を彼女に伝える。
「見たい、ぜ。……私は霊夢のことが好きだから、全部見たいんだ」
「……うん、わかった」
もしもそこに見出す霊夢の心が真実と違っていたなら、頬を引っぱたかれても文句は言えないような酷い望みだけれど。霊夢は簡単に、そうした魔理沙の望みを受け入れてくれた。