■ 44.「群像の少女性09」

LastUpdate:2009/06/13 初出:YURI-sis

「……そんなことないわ。萃香のほうが、ずっと私に色んなことをしてくれているわよ」

 

 鬱憤にも似たその感情が、霊夢に言葉を吐き出させた。
 あれだけ沢山のことをしてくれていて、私なんかに与えてくれていて。それなのに『何もしてない』だなんて嘘を吐く、萃香のことが許せなかったのだ。

 

「そ、そんなことないよ! 霊夢の方こそ、私を住まわせてくれたりご飯を作ってくれたり、本当にいつも色んなことをしてくれてるじゃないか!」
「ええ、そして私は馬鹿だから気づいてもいなかったわ。……傍に居てくれることで、あなたがずっと私を外敵から護ってくれていることになんか」
「そんなの私が好きだから霊夢の傍に居たかっただけだ! 護りたいのだって、好きだったら当たり前じゃないか! もし霊夢が傷ついたら……私の方が悲しいんだ!」

 

 殆ど叫ぶように吐き出された萃香の言葉は、強い力で霊夢の心を打ち付ける。
 鬼は嘘を吐けないという。それが真実であることも知っている。
 けれど――萃香が訴えてくれた言葉には、正直な言葉だけが持つ疑いようのない力強さのようなものが内包されていて。そうした事実とは全く別の次元で、霊夢は簡単に萃香の言葉を信じることができてしまう。これほど心に直接的に訴えかけてくる言葉の重みが真実でないとして、果たして何が真実で有り得るというのだろうだろう。これほどに心を震わせる言葉なんて、生まれて此の方初めて感じたというのに。
(――嗚呼、そうか)
 好きな人の為に何かをするのはあまりにも当然のことで。ましてそれらの行為の数々は決して相手の為だけでなく、相手の笑顔を見たいと思う自分自身の喜びのために行われるものであるのだから。だから……私たちがどちらも等しく、相手ばかりに沢山を与えて貰っているかのような申し訳ない不公平感抱くのは、当然のことなのかもしれなかった。
 萃香を住まわせるのは、ただ萃香にいつでも霊夢が会いたいからであって。萃香に毎日食事を作ることも、霊夢にとっては美味しそうに食べてくれる萃香の笑顔を見たいだけでしかない。一緒に住んでまでいつも傍に居てくれて、一緒にご飯に付き合ってくれて……そうしたことを萃香に感謝こそすれ、霊夢はただ一度も萃香に『してあげている』だなんて思ったことはないのだから。――これでは常日頃の萃香に対する思いが一方的な感謝になってしまうのも、無理からぬことなのだろう。

 

「……ふふっ」
「ぷっ、はははっ……!」

 

 そのことに気づいて、半ば無意識に霊夢が少し笑いを吹き出してしまうと。萃香の方も同じ事に気づいたのか、殆ど同時に笑い声を零してみせて。
 そんな互いの様子があまりに面白いものだから、私たちの笑い声はより大きなものになってしまって。性愛の最中だと言うことさえ忘れて、すっかり霊夢も萃香も馬鹿みたいな大声で笑い合ってしまう。
 もちろん、馬鹿笑いとは不釣り合いな程に。胸の裡に今まで以上に深く強固な相手への慕情を抱きながら。