■ 82.「泥み恋情35」
「……私、風越の入学式で、久さんの姿を探しました」
本来ならもう話題は変えるべきかもしれない。そうは思いながら、けれどこの機会を逸したら伝える機会を失ってしまうような――そんな気がして、美穂子はそう久さんに告げてしまっていた。
「私を探した……?」
「はい。でも、もちろん久さんの姿は全然見つけられなくて」
「……そうだろうね。ねえ、ひとつ訊いてもいい?」
「あ、はい。何でしょう」
「どうして私の姿を探したの?」
それは当然の疑問。
なのに私は、久さんの口からそれを直接に問われて、不思議な程に動揺していた。
「そ、それは……」
私自身、明確な理由なんて知らなかった。ただ、私の瞳について久さんが告げた言葉。印象に残っていたあの言葉の真意を問いたかっただけなのかもしれないし……もしかしたら、それだけじゃないのかもしれない。
ただ、あの日以来ずっと毎日久さんに逢いたいという思いは消えないものになっていた。風越の入学式でどれだけ探しても姿を見つけることができなくても、それでも逢いたいという思いは消せなくて。麻雀を打ち続けてさえいれば、いつかあなたに逢えるかもしれないと……淡く、けれど執拗に心を絡めてくる期待感に苛まれながら。一日千秋の想いで、あの日あなたに大会の会場で会える瞬間まで過ごしてきた日のことを覚えている。
どうして、ただ興味などという言葉でその感情を割り切っていた私がいたのだろう。
心を苛む程の深い熱を持ち、追い詰められた想い。
今にして思い返せば、それが――特別な想いで無い筈がないのに。