■ 83.「泥み恋情36」
     
  
「――私が」
 初めは疑いのような気持ちで。
     続いては、縋るような気持ちで。
     最後には心に唱えるだけで溢れる気持ちに正直なまま、それは直ちに確信に変わった。
「私が、久さんのことを、好きになってしまったからです……」
 言ってしまった。とうとう、言ってしまった。
     ああ――。言葉に出してみれば、それは何て当たり前の感情なのだろう。これほどに心を捕らわれて、気づけばいつだってあなたのことを考えていて。こんなにも一途すぎる想いの正体に今まで気づけなかったなんて――本当に、馬鹿みたいだ。
「……本気?」
    「は、はい。その……迷惑でしたら、ごめんなさい」
    「迷惑とかそういうのではないのだけれど」
 何かに躊躇うような素振り。
     けれど久さんは、やがて何かの覚悟を決めたみたいに。自分の胸元に手のひらを宛がいながら、美穂子のほうへ真っ直ぐに視線を向けてくる。