■ 97.「純愛調教 - 01」
「――レミリアから、私に?」
「ええ、そう承っているけれど?」
咲夜が差し出してくる手紙。それをアリスは訝しい気持ちで受け取る。横でパチュリーも少しだけ不思議そうな眼差しをしながら、私達のやりとりを眺めていた。
ここは紅魔館地下・大図書館。同じ紅魔館の中に居るのだから、用件があるのなら手紙ではなく直接言えば済む話だろうに――そう思いながら、手紙と一緒に咲夜が手渡してくれたペーパーナイフでぴっと封を切る。
「……この時間はレミィだったら寝ているわよ。だから、手紙という手段を使ったのじゃない?」
「ああ、成る程」
パチュリーの言葉で気づかされて、確かにそれなら納得もいく気がした。吸血鬼であるレミリアは日没と共に起き、日の出の頃に眠るのだと以前咲夜から聞いたことがあるから。
(……けれどそれにしたって)
咲夜なりパチュリーなりに言伝を頼めば済む問題なのではないだろうか。
まだ訝しい気持ちを少なからず抱えながら。ペーパーナイフだけ咲夜に返してから、アリスは手紙に簡単に目を通していく。――数行程度の短い文章で綴られた内容は、纏めると『話したいことがあるから、今日の夕食を一緒に食べよう』というもので。
つまるところ、これは夕食の招待状に他ならなかった。
「ふむ、夕飯の招待状ですか」
「個人宛の手紙を横から覗き見るのは、あまり感心しないわね……」
「お嬢様の手紙、というのに興味があったもので。出来心のようなものと思って頂ければ」
どう見ても初めから覗くつもりだった咲夜の行動を『出来心』と称するにはあまりに無理があるように思えたけれど。それでも見られて困る内容ではなかったことだし、追求はしなかった。
「レミリアが起きたら伝えてくれる? ――確かに承ったわ、と」
「承知しました。では夕飯はアリスの分も腕を振るわせて頂くことにしましょう」
そう言って咲夜はアリスの元から離れていく。その背中を見送りながら、けれどやっぱりアリスは端的に内容のみを綴っているその手紙に込められた、何かしらの思惑のようなものを想像せずにはいられなかった。