■ 120.「斯く熱めく - 07」
ブラウスのボタンを全部外してしまうと、さとり様の薄桃のシャツが空の目の前に完全に露わになった。ぶかぶかのブラウスとは違っていて、さとり様の躰にぴったりと適合するサイズの薄手のシャツは、透けたりこそしないものの包み秘めた躰のラインをはっきりと浮かび上がらせていて。背丈こそ空とそれほど変わらない筈であるのに、空よりもずっとずっと細すぎるさとり様の躰は、魅力云々以前に見ている空を心配にさせて止まなかった。
女性として、痩身は魅力のひとつであるのだろうけれど。さとり様のお躰は、シャツの上から察するだけでも怖いぐらいに痩せ細っていて。食が細いのは知っていたし、病弱気味でいらっしゃるのも知っていたけれど……まさか、これほどだなんて思っていなかったものだから。寝食を共にする立場にありながら、さとり様のか弱さに気づくことが出来ずにいた己を空は恥じないでは居られなかった。
「……空のせいではありませんよ。私が、自分を大事にしていないだけなのですから」
「そんな……そんな、悲しいこと言わないで下さい。もっと、ご自分を大事にして下さい」
自分が大事でない、なんて。
今すぐにでも泣いてしまいそうな程、その言葉は辛く空の胸を突いた。
「――私は自分があまり好きではないので、大事にしようと思うことができないのです」
「わ、私はさとり様のことが好きです! さとり様が自分を嫌いなのだとしても、私がその分までさとり様のことを好きで居ますからっ! だ、だから……そんな悲しいこと、言わないで下さい……」
「空……」
さとり様の手のひらが、再度空の頬に触れる。
こうして頬に触れられるのは、空にとってとても好きなことだったけれど。温かな感触が、今だけはどこか淋しく空の胸には堪えて止まない。こんなに……こんなにも、さとり様のことが好きなのに。伝わらなくてもいい想いはどんなにも伝わるというのに――こんな単純な感情がどうして伝わらないのだろう、どうして判って頂けないのだろう。
「すみません、空。……判りました、今後は自分のことを大事にするように留意しますから」
「あ、ありがとうございます!」
「……お礼を言うのは、空ではなく私のほうだと思います。自分自身では好きになれない私ですが……空が好きだと言ってくれるおかげで、少しだけ好きになれるような気がしますから」