■ 125.「斯く熱めく - 12」
「わ、私はさとり様のペットで居たいです。それじゃ、駄目ですか?」
「駄目です。あなたは私の庇護を受ける必要が無いのですから、ペットではありません」
「うう……」
「ですが、私は。――あなたの庇護を受けなければ死んでしまいます。ですから、私が空のペットになることでしたら、おかしくないと思うのですが」
「そ、そのような恐れ多いことは……」
「……ふむ。では、言い方を変えましょう」
こほん、と小さく咳払いをひとつしてから。
さとり様の――縋るような瞳が、空を真っ直ぐに捉えてきた。
「私は、まだあなたが言葉も力も持たなかった頃から長期間ずっと、主とペットという関係を続けてきました。だからといってあなたに恩を売ってきたなどと、押しつけがましいことを言いたいわけではありませんが。――私だって、幾度となく空のペットになりたいと思ってきたのです」
「さ、さとり様……?」
「ですから、空さえ嫌でないのでしたら、そろそろ。……いちど主従を代わって下さっても、良いのではありませんか?」
主従を、代わる。
今日まで一度として考えたこともないことが、急速に現実感を帯びる。
「で、ですが、私はさとり様のお側に……」
「主従が逆になっても、ずっと私達は一緒にいられます。……寧ろ、主人であるあなたが『ずっと傍に居なさい』と言って下されば、それだけでこれまで以上に私はずっとあなたから離れず傍に居ることができますよ?」
「う、うう……。でも私は、主人がどんなことをすればいいのかも判らないですし」
「簡単です。やるべきことなんて、たったひとつぐらい」
「そうなのですか?」
「ええ。……私のことを、呼び捨てに呼んで下さればいいのです」
「――よ、呼び捨て!?」
頬が、とても熱くなる。
そのお名前を。呼び捨てにしたいと思ったことが、無いと言ったら嘘になる、けれど。
「ええ。今までに数度だけ、心の中で私のことを呼び捨てにして下さいましたよね」
「き、気づいていたんですか!?」
「ふふっ、私はさとりですよ? それに、好きな人の心には誰よりも敏感なものなのです」
「わ、わわわ……。す、すみません」
「謝る必要なんて何も無いのです。……空の心の声を聞いた時、私もあなたにそう呼び捨てにされたいと心底から思ったのですから。どうか今日は、その夢を叶えては下さいませんか?」