■ 149.「斯く熱めく - 36」

LastUpdate:2009/09/26 初出:YURI-sis


「ぁ、はっ……! ふぅ、んっ……!」

 

 大量の愛液を纏わせた手の儘で、さとり様の秘所にあたかもそれを擦り込むかのように、執拗な愛撫を空は這わせていく。既に十分すぎるほど敏感になりすぎているのだろう、空の愛撫のひとつひとつにその小さな躰を揺すりながら、さとり様は刺激から生まれる感覚に感じ入っている様子だった。
 感じすぎてしまっているのか、目元の端に涙さえ浮かべていらっしゃるのを見てしまうと、少しだけ申し訳ない気持ちも空の心には生まれて。けれどそうした感情とは対照的に、同時にもう少しだけさとり様のことを苛めたいと思ってしまう不思議な気持ちも空の心には生まれているみたいだった。
 ――これが果たして『嗜虐心』と呼ぶものなのかどうかはさとり自身にも判らないけれど。魅惑は抗いがたく、意地悪を言わないでと願ったさとり様の意志を無下にするかのように、衝動の儘に言葉を吐き出してしまう。

 

「これからどうして欲しいですか。……さとり」

 

 意図して呼び捨てにした空の言葉に。
 さとり様は一瞬大きく目を見開いて驚きの感情を露わにした後。けれど、やがて決して不快そうにではなく。どこか心を奪われたかのような惚けた表情で、空のことを見つめ返してきた。

 

「……空様の、お好きなように苛めて下さい」

 

 さとり様の言葉が、空の心を容易く鷲掴みにしてしまう。
 思えばこの瞬間から、私達は互いに性愛の最中で相手が望む役割を演じ始めたのかもしれなかった。乱暴にされたいと告げるさとり様の願いを叶える為に空はいつしか『嗜虐的』な自分を演じ始めていて、そうした空に応えるかのようにさとり様も『被虐的』な自分を演じ始めていたのだ。
 もちろんそれは性愛の最中限りの、一時の幻想に過ぎないのだけれど。それでも……いまこの瞬間だけは、誰よりもさとり様の総てを独占できているという意識、それが空の心を深い酩酊に誘い堕としてしまう。