■ 167.「誠実と純真」
いちどにとりと一緒に、地下から吹き出してきた温泉まで行った時に彼女の裸は見ているつもりだったけれど。こうしてベッドの上で椛の手によって衣服を脱がし、少しずつ露わになるにとりの裸は――以前視界に収めたものと何もかもが違って見えた。
椛とは比べものにならない程、ずっと優しくて嫋やかな肢体。上気するように少しだけ赤みがかって、触れるとしっとりとした感触を残す素肌。着脱しやすいことも彼女にとっては機能美のひとつなのだろうか、椛の手によっていとも容易く脱がされ、下着だけの格好になったにとりの姿は以前見たものよりずっと魅力的で……魅惑的で。椛の視線と心とをぐっと掴んで離さなくなる。
「……そんなにじっと見つめられると、さすがに恥ずかしいよ」
「す、すまない」
慌てて視線を逸らす椛。
その頬に、にとりはそっと手のひらを宛がってくる。
「別に嫌な訳じゃないから謝る必要はないよ。……私の裸を見て、どう思った?」
「そ、その。凄く……魅力的だと、思った」
嘘を上手く吐ける気がしなくて、椛は正直にそう告げる。
椛の言葉に、にとりはすこしだけ困ったように眉を下げてみせて。
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど……。私の躰のどこに魅力があるのさ?」
シャツの上から平坦な自身の乳房をそっと撫で下ろすような仕草をしてみせながら。問い詰めるような言葉ではなく、単純に申し訳なさそうな語調でそんな風に言ってみせた。
「どこにって言われると困ってしまうけれど。だけど、嘘じゃないよ」
「……ホントに?」
「うん、本当に。だって好きな人の躰だもん、どきどきしないわけないよ」
「そ、そういうものかな?」
「そういうものだと思うよ。……こうすれば、判るかな?」
椛はそう告げてから。にとりの片方の手のひらを、静かに自分の胸元へと導く。
先程から否応なしに意識されているこの胸の高鳴りが、そうすれば彼女の手を介して伝わると思ったからだ。
「……ホントに、凄くどきどきしてる」
「うん。下着だけのにとりを見て、こんなにどきどきしちゃってるんだよ?」
「わ、私の躰を見て……。そ、それって、凄くえっちだよね」
「そうだね……きっと私はいま、にとりに対して凄くえっちな気持ちになってるんだと思う」
薄布だけが覆う彼女の躰、それを一刻も早く暴いてしまいたいと逸る気持ちが椛の中にはある。許されるなら本当に今すぐにでも、少しだけ乱暴に彼女のから衣服を奪い取ってしまいたいぐらいに。えっちな気持ちばかりが、どうしようもなく心を埋め尽くしているのは――それだけにとりのことを、この上なく特別に想ってしまっている私が居るからなのだろうか。