■ 176.「持てる者の檻06」

LastUpdate:2009/10/22 初出:YURI-sis

「……案外、今ぐらいの関係の方がいいんだろうか」

 

 疑問混じりに魔理沙が漏らした声。その声に、霊夢は少しだけ驚いてみせると。
 けれど一瞬後には最上級の微笑みを浮かべながら、頷いてみせてくれた。

 

「もし私達の関係が今より深くなったら。多分、何かしらが駄目になってしまうと思うの」
「そう、だろうな……やっぱり」
「ええ。……だけど私達には、今よりも関係を減らすことなんて、できないから」

 

 さも当たり前のように霊夢はそれを『できない』と口にする。実際魔理沙にとっても、それは想像するだけで無理だと判ることでもあるだけに、とても自然に霊夢がそう口にしてくれることは嬉しかった。
 結局、これ以上関係を深めることも、離れることもできやしないのだ。今ぐらいが丁度好いというより……現在の私達が交わしている関係から少しでも傾いてしまえば、何かが悪くなってしまう危うい均衡のようなものがあって。現状維持以外の選択肢を選べなくなってしまっているようなものだろうか。

 

「……魔理沙は、今の私達の関係に不満がある?」
「有り得ない、ぜ」

 

 仮初めの主従を決めながら求め合う今の関係。だけど、その少しだけ風変わりな関係が、魔理沙が霊夢に求めているものの総てを満たしてくれている。相手を自分のものにしたい、自分を相手のものにしてほしい。奇妙でこそあるのかもしれないが、それでも今の私達の関係は互いが求めている欲求を充足させる為に、最善の方法を与えてくれているのだから。

 

「だったら、今のままでいいんじゃない? ……私も、魔理沙とこういう関係を続けていきたいし」

 

 少しだけ頬を赤らめながら霊夢がそう言ってくれさえするなら。魔理沙だって、不満なんてある筈もないのだ。

 

「――そうだな。とりあえず今は、勝者の特権で少しでも霊夢を可愛がることにするぜ」
「ええ。……私をいっぱい愛して、いっぱい虐めて、ね?」
「応っ、任せてくれ。それだけなら、この世界で誰より得意な自信があるぜ」

 

 今まで幾度となく愛しすぎた霊夢の躰。私はその総てを、誰よりも良く知っているから。
 ベッドに蹲る霊夢の躰の上に覆い被さるように魔理沙は自信の躰を委ねる。体重を掛けてしまうのには今も少しだけ抵抗があるけれど、以前に霊夢が『そのほうが安心できるから』と言ってくれてからは、腕で自分の躰を支えたりするようなこともせずに素直に体重ごと押し倒される霊夢に躰を預けるようにしていた。
 実際そうするだけで、私達の躰はより密接に繋がりあって、鼓動や体温といった伝わり合ってくるものもある。今だってこうして躰を触れ合わせていれば、熱すぎるぐらいの霊夢の体温が伝わってくるようで……長話のせいで随分と霊夢をえっちな気分のまま待たせてしまったのだな、と少しだけ魔理沙は自省もしてしまう。
 けれど話している時間が長かった分だけ霊夢の胸元に付いていた晒し木綿の痣も消えていて、手のひらを滑らせる霊夢の乳房からは滑らかな感触だけが返されてくるのは素直に嬉しいことだった。霊夢は『気が引き締まるから』と言って愛用しているけれど、どうしてもあの晒し木綿が胸元に残す痛々しい痕だけは今も慣れることができないから。
 痣一つない綺麗な素肌。乳房のごく薄い膨らみに混じるのは、少しだけ汗ばんだしっとりとした感触。心臓にも近い胸元に手のひらを宛がえば、早鐘を撞くように高鳴っている霊夢の鼓動が伝わってきて。霊夢の期待がそのまま伝わってくるようにも思えて、魔理沙はより一層に霊夢を沢山愛したいという想いを強めていく。