■ 178.「持てる者の檻」
「はぁ、ぁ……」
熱い溜息が漏れ出る霊夢の顔は、すっかり愛される為の表情になってしまっている。自分では確かめようもないけれど、きっと魔理沙の顔もまた愛する表情のそれになっている筈で、いちど愛し合う行為を本格的に初めてさえしまえばそれだけで、二人が性愛の最中に心を堕とすまでには然程の時間さえ必要ではないみたいだった。
急にキスしたい気持ちに駆られて、魔理沙はそっと静かな喘ぎごと霊夢の唇を奪う。奪ってからそのまま額のほうにも、続いて頬にもキスの雨を降らせていき、霊夢の喉から首筋に掛けてまでも愛おしさの儘に口吻けていくと。移りゆく次第に従ってより甘く熱ぼったい霊夢の吐息がちょうど耳元に当たるように届いてきて、擽るように魔理沙は胸の裡で官能心が煽られていくのを意識する。
「ま、魔理沙、息、荒いよ……?」
「お前、だって……っ」
思考は少しずつ儘ならなくなって、代わりに横行する無意識が魔理沙を動かし求めさせていく。
さらに鎖骨を舐めるように滑った魔理沙の唇が霊夢の乳房やその先端にまで及ぶようになると、より艶っぽい溜息とも喘ぎとも取れる声が霊夢の喉からは吐き出された。
「……魔理沙、お願い」
何を、と霊夢は言わなかったけれど、その言葉が促すものの意味ぐらいは魔理沙にだって判る。
片方の乳房を左手で静かに揉みしだき、もう片方には口吻けたりそのまま吸い付いたりする今の焦らすような愛撫では、霊夢も満足できないのだろう。別に催促の言葉を言わせたいと思ってした行為ではなかったのだけれど。霊夢が積極的にそう望んでくれるのなら、もちろん魔理沙に拒む意志など有りはしなかった。
「あ、あ、あ……」
肯定の言葉を伝える代わりに、魔理沙は両手の指先をつつっと霊夢の躰を滑り下ろさせていくことで承諾の意思を伝える。お腹を伝っていった指先がやがて霊夢の大事な場所の近くにまで及ぶと、そこには既に幾重もの雫が溢れ滴った形跡があって。(少し焦らしすぎたかな)と魔理沙は内心でちょっとだけ反省した。
「なんだか最近、凄くえっちだよな、霊夢って」
「だ、誰がそんな風にしたのよ!」
「……やっぱり、私なんだろうなあ」
くつくつと抑えきれない声で笑ってしまうと、唇を尖らせながら恨めしそうな目つきをしてみせる霊夢の表情があって。
そんな露骨な霊夢の反応にさえ、どうしようもない嬉しさばかりを感じてしまう私は。やっぱり馬鹿みたいに愛してしまっていて、霊夢のことばかりに捕らわれてしまっているのだろう。
「責任は取るぜ」
「当たり前よ、そんなの……」
努めてぶっきらぼうに言ってみせながらも、霊夢の言葉に嬉しさの色が混じっていることは、付き合いが長い魔理沙には手に取るように判って。喜んでくれる霊夢の気持ちに、心底応えたいと想う正直な気持ちが、積極的な形で魔理沙に求める指先を紡がせていく。